研究課題/領域番号 |
20H00630
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
井原 賢 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (70450202)
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研究分担者 |
豊田 賢治 新潟大学, 佐渡自然共生科学センター, 特任助教 (00757370)
宮川 信一 東京理科大学, 先進工学部生命システム工学科, 准教授 (30404354)
田中 宏明 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (70344017)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セロトニントランスポーター / ドーパミントランスポーター / GPCR / 抗うつ薬 / 甲殻類 / in vitroアッセイ |
研究実績の概要 |
R2年度は、甲殻類受容体の機能解析のための薬理学的な細胞試験法を開発した。対象とする受容体は5種類:ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、アセチルコリン受容体、セロトニントランスポーター。 対象とする甲殻類は広く日本の河川や湖沼に生息する双殻目のミジンコ(Daphnia pulexまたはDaphnia magna)と端脚目のクルマエビなどを対象とした。 生物の組織は分担研究者の豊田が水産試験場等から入手した。分担研究者の宮川を中心にRNAseq (次世代シーケンサーを用いてtotal RNAの配列情報を取得し、得られたリード配列から遺伝子配列を構築)を行った。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う研究の遅延が生じたものの、ミジンコのセロトニントランスポーター(SERT)とドーパミントランスポーター(DAT)の遺伝子のクローニングに成功した。また、クルマエビのSERTのクローニングにも成功した。得られた受容体遺伝子を発現するプラスミドを作成し、研究代表者の井原が既に保有するトランスポーター阻害アッセイ(トランスポーターの細胞試験)に活用した。この結果、ミジンコのSERTは内因性のアゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出できた。また、一部の抗うつ薬でミジンコのSERTの活性が阻害されることも試験によって確認できた。つまり人が使用する抗うつ薬でミジンコのトランスポーターが実際に阻害を受けることを、世界で初めて明らかにした。 一方で、ミジンコのDATやクルマエビのSERTは内因性のアゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出できなかった。細胞内でのトランスポーターの発現量が低い可能性があり、トランスフェクションの方法としてNucleofectorの検討を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う研究の遅延が生じたものの、ミジンコのセロトニントランスポーター(SERT)とドーパミントランスポーター(DAT)の遺伝子、クルマエビのSERTのクローニングに成功した。また、トランスポーター阻害アッセイ(トランスポーターの細胞試験)に活用した結果、ミジンコのSERTは内因性のアゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出でき、一部の抗うつ薬でミジンコのSERTの活性が阻害されることも試験によって確認できた。つまり人が使用する抗うつ薬でミジンコのトランスポーターが実際に阻害を受けることを、世界で初めて明らかにした。 一方で、ミジンコのDATやクルマエビのSERTは内因性のアゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出できなかった。この点は、当初の想定どおりの結果ではなかった。 ミジンコとクルマエビのGたんぱく質連結型受容体(GPCR)のRNAseqを実施して、ヒトや魚類のGPCRに相同な遺伝子の配列情報を入手した。クローニングの準備が整った。一部の受容体については既にクローニングに成功し、in vitroアッセイに供したが、内因性アゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出できていない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、甲殻類受容体の機能解析のための薬理学的な細胞試験法を開発する。対象とする受容体は5種類:ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体、アセチルコリン受容体、セロトニントランスポーターとドーパミントランスポーター、ノルエピネフリントランスポーター。ミジンコとクルマエビなどを対象とする。生物の組織の入手と遺伝子配列情報の入手およびクローニングは分担研究者の豊田と宮川が行う。もしも甲殻類のゲノム上に類似のアミノ酸配列の受容体が複数見つかる場合は、全ての遺伝子を単離して細胞試験に用いる。 得られた受容体遺伝子を発現するプラスミドを作成し、研究代表者の井原が既に保有するTGFalpha shedding アッセイ (GPCRの細胞試験)とトランスポーター阻害アッセイ(トランスポーターの細胞試験)に活用する。前年度までの成果で、甲殻類GPCRでのアッセイの開発は、内因性のアゴニストであるモノアミンとの反応が感度良く検出できていない。細胞内のGPCRのシグナルの伝達が弱いことが原因として考えられるので、細胞内に発現させるGタンパクの種類を変える工夫を行うことで検出感度を上げ、実験系を確立する。モノアミントランスポーターについても、細胞内でのトランスポーターの発現量が低い可能性があり、トランスフェクションの方法としてNucleofectorの検討を進める。 ミジンコのin vivo医薬品曝露試験を実施する。日本で市販されている抗うつ薬やGPCR阻害薬をミジンコに曝露して、急性毒性および繁殖毒性を評価する。
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