研究課題
本研究では,環境に潜伏する耐性遺伝子の実態解明からさらに進めて,水環境に存在する陸起源および水圏起源の耐性遺伝子が人獣病原菌・腸内細菌に伝播するプロセスを解析し,水圏から人間環境へ耐性遺伝子が侵入する機構・条件の解明とリスク評価を目的としている。動物・ヒト間での遺伝子伝播の研究はあるが,自然水圏からヒトへのリンク機構を解明するのは新規研究であり,ワンヘルスに環境視点で貢献する研究である。これまでに,水環境での耐性遺伝子と伝達因子の相関解析を行い,比較的新しく見つかった耐性遺伝子は多様な伝達因子に担われるが,徐々に特定のものに収束することが示唆された。また,アルファプロテオバクテリアに属する海洋細菌に多く見出される新規のsul4は,非伝達性であり,通常の葉酸合成系で働く酵素であることがわかった。この遺伝子は河川の細菌では伝達性が疑われていることから(既報),海洋細菌と河川細菌では機能が変化していることが示唆される。今後の詳細な解析が望まれる。下水環境と海洋環境から得た耐性菌の持つ耐性遺伝子の伝達を実験的に検討し,既報より高率に伝達が起こりうることを明らかにした。遺伝子供与菌の栄養状態が低下すると伝達性も低下し,有機物添加で伝達率が回復することから,有機物濃度の高い下水中では,遺伝子伝播が起こりやすいことが考えられた。また,化学物質の共存などで伝達率が上昇する条件を多くの既報から抽出し,決定木解析で明確にしつつある。耐性遺伝子が多様な細菌群集へ拡散する機構と条件の解明が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記述した計画は順調に進展している。研究を担当する留学生が,コロナのために来日が1年以上遅れたため,水環境の標的日和見病原菌Acinetobacterの研究が遅れている。しかし,この間に,付属病院の協力を得て,臨床株の取得を行い,今後の環境株とのゲノム比較研究の準備はできた。さらに,水環境の耐性菌は,イエバエの媒介で生活圏へ侵入できることを解明した。
環境からのAcinetobacter分離を行い,臨床株とのゲノム比較を行う。ゲノム変遷から環境株の人間環境への侵入リスクを評価する。また,下水等の身近な水環境での遺伝子伝播効率を推測する。最終的には,環境から生活圏への耐性遺伝子侵入のリスクを考察し,リスク低減策を提言する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件) 図書 (1件)
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