研究課題
これまでに,環境水での薬剤耐性遺伝子の潜伏実態を解明し,そのヒト細菌への伝達プロセスと促進因子等を明らかにしてきた。環境水の有機物濃度やある種の金属等の存在が異種間遺伝子伝達を促進することが明らかになり,耐性遺伝子の拡散リスクは,化学汚染とリンクしていることを示唆した。また,既報データを利用した統計学的解析から,どのようなケースでリスクが高まるかを分担者と共同で解析中であり,期間内に論文発表が可能。さらに,環境と臨床から得られたAcinetobacter株の全ゲノム解析から,それぞれの特徴的な耐性遺伝子保有プロフィールが明らかになった。現在論文作成中である。2022年度は,下水環境菌から腸内細菌への遺伝子伝達が高率に起こることを解明した研究が評価され,2022年度水環境学会の年会優秀発表賞(クリタ賞)を受賞した(分担者,東北大)。また,海洋細菌が持つ新規サルファ剤耐性遺伝子sul4は,既知のsul遺伝子のケースと異なり,伝達因子を伴わないことから,海洋細菌の必須遺伝子として機能していることことを示唆した。この成果は現在論文投稿中である。くわえて,分担者と討論をかさね,微生物生態系では原生生物が耐性遺伝子の水平伝播を促進することが知られてきたことをまとめて,総説として発表した。本課題期間にさらに原著論文のみならず,総説論文を複数発表予定であり,世界への発信を加速する。成果はマレーシア国際遺伝学会,マリンエンジニアリング学会,日本水環境学会等でも招待講演,特別講演等を行っており,本課題の成果発表は国内・国際的に十分行っている。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍によって担当留学生の来日が遅れたために調査とそれに付随する研究が延期になっていたが,令和3年度には再開でき,研究が進んだ。水圏環境由来のAcinetobacter株と臨床由来株では保有する耐性遺伝子のプロフィールに違いがあり,環境菌の持つ遺伝子が臨床へ侵入した場合に,新たな遺伝子リスクになる可能性が示唆された。全ゲノム解析から得られた成果は現在論文作成中である。また,分担者との共同論文が完成した。現在は海洋細菌が新規サルファ剤耐性遺伝子を保有することを解明した成果を分担者とともに論文投稿中である。本課題の最終目的であるリスク評価モデルも完成に近くまで進んでおり,本課題期限内には終了する予定である。
最終年(2023年度)では,本課題の最終目標である水環境の耐性遺伝子がヒト環境へ侵入するリスクの評価を行い,数理モデルでの表現までを目指す。また,これまでの成果をすべて論文発表する予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 9件、 招待講演 10件)
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