研究課題/領域番号 |
20H00640
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小林 秀樹 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー代理 (10392961)
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研究分担者 |
伊川 浩樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター, 主任研究員 (10754393)
滝川 雅之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), グループリーダー (30360754)
永野 博彦 新潟大学, 自然科学系, 助教 (40758918)
野口 享太郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70353802)
斉藤 和之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 主任研究員 (70419133)
酒井 佑槙 苫小牧工業高等専門学校, 創造工学科, 准教授 (80862523)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 北方林 / 永久凍土 / 温室効果ガスフラックス / 土壌動態 / 北極域温暖化 |
研究実績の概要 |
今年度は、アラスカ内陸の観測サイトに5月上旬に訪問し、永久凍土を融解させるための昇温実験設備の設営を進めた。現地の渦相関フラックス観測サイトにおいて、土壌の昇温を行わない参照サイトであるコントロール区とヒーターを設置する昇温実験区のサイト(各直径6m)を決定し、昇温実験サイトについては棒状のヒーター(1.5m x 38本)を約1ヶ月かけて埋設した。並行して2021年度に開発した自動開閉型温室効果ガスチャンバーをコントロール区、ヒーターにより凍土の融解を行う昇温区の中心付近にそれぞれ4台設置し、土壌CO2フラックスの観測を開始した。当初の計画では、ヒーターの設置後にすぐに土壌の昇温を開始し、夏までには地温が平均で2-3度高くなる条件を達成する予定であった。しかし現地の植生・土壌の環境を詳細に検討した結果、温度上昇を行う前のコントロール区と昇温区の土壌CO2フラックスの差異を基礎データとして取得したほうがよいという結論になり、2022年度はヒーターの電源はOFFのままで調査を実施した。今年度にはイングロースコア法のチューブ、コケの成長観測、フェノロジーカメラ、土壌水分・地温の多地点・複数深度観測のためのセンサを設置したほか、夏季にコントロール区と昇温区で土壌サンプルを取得した。また、温室効果ガスの渦相関フラックス観測を継続し、林床・生態系全体の生態系呼吸量を算出した。渦相関フラックス観測と土壌チャンバーによるCO2呼吸観測の初期データから、9月から10月の秋の土壌CO2フラックスの動態を詳細に分析した結果、土壌表層が凍結後も、約2週間にわたって土壌からCO2が放出されていることが明らかとなった。これは、表層が凍結後も地下部の土壌の凍結が進まない間は微生物や根呼吸の活動が続き、それがCO2の放出に寄与しているものと推察された。得られた知見の一部を学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響で予定よりも1年遅れとなったが、当初予定していた永久凍土融解を再現するための昇温実験設備の構築が完了し、無事観測を開始することができた。観測の遅れを取り戻すために現地に雪解け直後の5月から11月まで現地に長期滞在し、実験設備の設営や植物、土壌の季節変化の観測を進めることができた。新型コロナの影響でサイトの下見ができなかったことから、昇温サイトは事前に入手した航空写真で行ったが、現場を確認したところ、昇温区とコントロール区の昇温前の状態が同様の条件であるかどうか、さらに検討が必要であることが判明したため、2022年度はヒーターを設置したものの、昇温は行わず定常状態での両区(コントロール区と昇温区)の差異を検討することにした。この処理によって当初計画より研究の実施が遅れ、本研究の研究期間である2023年度末までに得られる昇温実験の結果は次年度(2023年度)の1年間のみになるが、信頼性の高い昇温結果のデータを得るためには不可欠な処置であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度である2023年度は、雪解け直後からヒーターの電源を入れて昇温区の永久凍土融解を開始する。永久凍土上でのヒーターによる温暖化実験はこれまでほとんど行われてこなかったため、実際にどの程度の熱量を加えることで2-3℃の温度上昇が実現できるかは、実際に実験を始めてみないと不明なところがある。そのため、ヒーターの電源を入れてからしばらくはヒーターの出力と地温データの関係について注意深くモニタリングし、2℃程度の温度上昇を夏季(8月頃)までに実現できるように実験をすすめる予定である。また、引き続き、植物や土壌データの取得と分析を進め、得られたデータを取りまとめて成果の公表を進める。
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