研究課題/領域番号 |
20H00645
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
野見山 桂 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 准教授 (30512686)
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研究分担者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
池中 良徳 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (40543509)
久保田 彰 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (60432811)
田上 瑠美 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 助教 (60767226)
江口 哲史 千葉大学, 予防医学センター, 講師 (70595826)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | PPCPs / 脳移行 / リスク評価 / 魚類 / in vivo曝露試験 / タンパク結合 / 生物濃縮係数 |
研究実績の概要 |
これまでに野生魚類血漿中に残留する医薬品類の濃度をヒトで生物活性が認められる血中濃度と比較して潜在リスクを評価した結果、クロルフェニラミンの血漿中濃度は、ヒト有効血中濃度を超過し、ハロペリドールの血漿中濃度は近い値であったことから、これら物質の生物活性による悪影響が懸念された。 そこで本年度は、ゼブラフィッシュ胚を用いたハロペリドールとクロルフェニラミンのin vivo曝露試験を実施して、生物濃縮性および発生発達毒性、中枢神経毒性を評価した。 試験水中の被験物質濃度が増加するにつれて、ゼブラフィッシュ胚中の濃度も増加した。曝露濃度群ごとに生物濃縮係数を算出したところ、 ハロペリドールの生物濃縮係数は0.001-0.1μMの曝露濃度群で同程度(700-940)を示したが、0.3μM以上の曝露濃度群では顕著に低下した。この要因として、ゼブラフィッシュ中の脂質やタンパク質へのハロペリドールの結合や分配が飽和したことが推察される。一方、クロルフェニラミンの生物濃縮係数は、1-100μMの曝露濃度群において概ね一定であり(49-68)、ハロペリドールに比べて魚体内中に濃縮されにくいことが示された。 ハロペリドールの曝露により、1μM以上の曝露群で浮袋の膨張不全、3μM以上の曝露群で心臓周囲と卵黄嚢に浮腫、体幹血流量の低下も認められた。神経伝達物質レベルは、1μM以上の曝露群でDopamineとその代謝物であるNorepinephrine、3-MTレベルが有意に減少し、3μM以上の曝露群でSerotoninと5-MTレベルが有意に減少した。 本結果により、ハロペリドールは魚類に対して比較的高い生物濃縮性を有することが明らかとなった。高濃度曝露群では、血中において臓器・組織に移行可能な遊離型ハロペリドールの濃度が増加したことにより、発生毒性や致死毒性が誘発された可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね、研究目的である、野生魚類を対象にしたPPCPsに代表されるイオン性環境汚染物質の脳移行と中枢神経毒性リスク評価を目指した基盤は構築されつつある。多様な魚種を対象にPPCPsの曝露と脳移行の実態を化学分析により明らかにした結果、特異な残留・脳移行性を示す化学物質として、浮上してきた化学物質(ハロペリドール・クロルフェニラミン)に対してゼブラフィッシュ胚による曝露試験を実施し、ADME関連因子の数値化と既存モデルへの取り込みにより、魚種・化学物質別の脳移行性予測を試みることができている。 しかし、一部のPPCPsは、親油性・疎水性の尺度であるオクタノール/水分配係数だけでは説明できない特異な生物濃縮係数を示すことがわかり、その要因として、魚類における化学物質の取込・分布・代謝・排泄(ADME)に関わる因子の機能差が考えられる。そこで最終年度では、ADMEのうち代謝に注目し、ティラピアの肝臓S9画分を用いたPPCPs 25種のin vitro代謝試験を実施して、肝代謝速度定数を算出する。加えて、肝代謝速度定数を生物濃縮係数予測モデルのパラメータとして用いることで生物濃縮係数を予測し、実測値と比較することにより、肝代謝を考慮した予測モデルの有用性評価を試みることで、データを補完できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、ADMEのうち代謝に注目し、ティラピアの肝臓S9画分を用いたPPCPs 25種のin vitro代謝試験を実施して、肝代謝速度定数を算出する。加えて、肝代謝速度定数を生物濃縮係数予測モデルのパラメータとして用いることで生物濃縮係数を予測し、実測値と比較することにより、肝代謝を考慮した予測モデルの有用性評価を試みる。
サブテーマ1では、PPCPsの曝露と脳移行の実態解明において浮上してきた化学物質(ハロペリドール・クロルフェニラミン)に対してゼブラフィッシュ・ティラピアによる曝露試験を実施し、統合オミクス解析により行動異常など表現型へ繋がるAOPを解析することで、神経毒性発現機序に至る“共通性”と“種差”について解明する。これらの結果から、種間に存在する化学物質“高”感受性を決定する規定因子の理解が進み、生物種間差を考慮したバイオマーカーの選定へとつなげることで、精度の高い影響評価予測モデルの基盤構築を目指す。
サブテーマ2では、ゼブラフィッシュを用いた、ハロペリドール・クロルフェニラミン曝露による神経行動学的な影響(高次脳機能への影響)と神経組織学的な影響を解析する。このため、ビデオ行動解析システムを用いて稚魚の運動を記録し、運動量を定量化する。曝露試験を通じて、ドーパミンやセロトニン、アセチルコリン、およびその代謝産物を含むカテコールアミン類(15物質)を分析し、イオン性環境汚染物質の脳移行に伴う神経伝達物質の変化を解析する。
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