研究課題/領域番号 |
20H00654
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松元 慎吾 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (90741041)
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研究分担者 |
武田 憲彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (40422307)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | SI-PET / パラ水素誘起偏極 / 分子イメージング / 超偏極13C MRI |
研究実績の概要 |
超偏極タグは、安定同位体である13Cや15Nで標識した分子の核偏極率(= MRI感度に比例)を数万倍に励起することにより、放射性同位体標識に匹敵する高感度検出を実現する新しい分子センシング技術である。本研究では、1)水素ガスを用いた常温・低磁場核偏極により、現行の動的核偏極型の10分の1の低コストで導入可能な安定同位体標識によるPET様の分子イメージング技術(SI-PET)を実現する。このSI-PETを疾患モデルに適用し、2)心筋梗塞における心筋虚血の検出、代謝変容を指標とする認知症の早期検出、炎症性疾患における細胞死イメージング、の3つの診断法を確立することを目的とする。 2年度目となる令和3年度は、初年度に構築した超偏極13C注射剤の全製造プロセスをマイコンPSoCにより自動制御するシステムを用いて励起装置を最適化することで、[1-13C]ピルビン酸の製造量30mL以上および13C偏極率7.5%を達成した。この30mLの反応系を4セット並列駆動することで、臨床応用に必要な100mL以上の超偏極13C注射剤の製造が期待される成果が得られた。励起装置の詳細とその応用研究として、常温低磁場核偏極により生成した超偏極13Cフマル酸を用いて、肝障害モデルにおける細胞死イメージングのin vivo撮像に成功した成果を合わせて学術雑誌への投稿準備を進めている。また、超偏極13C MRIの高解像度化を目指しDixon-IDEAL型の撮像シーケンスと再構成プログラムの開発を進め、数値ファントムを用いたシミュレーションでは、空間分解能1mmで4代謝物を区別した同時イメージングが可能であることを確認した。今後は上記の励起装置とMRI撮像技術を疾患モデル動物に適用し、改善した画質でのより実用的な代謝イメージング取得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、常温低磁場核偏極が可能にする安定同位体標識トレーサーを用いたPET様の分子イメージング診断法確立するため、13C励起装置の開発、MRI装置および撮像技術の開発、各種疾患モデル動物を用いた前臨床POCの取得、の3つの戦略課題を並行して進めている。13励起装置においては、組込型マイコンPSoCによって13C励起プロセスを自動制御するシステムへの変更を進め、代謝プローブ前駆体溶液の圧送、パラ水素付加による1H超偏極誘導、1H-13C分極移動プロセス、化学処理、精製に渡る一連の制御弁の開閉タイミングや磁場および温度コントロールを一括管理できるシステムを構築した。この全自動システムを用いて、製造プロセスを精密に調整し、超偏極[1-13C]ピルビン酸の製造量および13C偏極率の大幅な向上を達成した。 MRI撮像技術では、超偏極13C MRI撮像の高解像度化を目指しDixon-IDEAL型の撮像シーケンスとMatlabによる再構成プログラムの開発を進め、既存撮像法に比べ半分の撮像時間で空間分解能を2mmから1mmへと向上した4代謝物の同時分離イメージンが可能であることを数値ファントムを用いたシミュレーションにより確認した。また、米国立がん研究所NCI/NIHとの共同研究において、イソクエン酸脱水素酵素の遺伝子変異を検出する新規の超偏極13C分子トレーサーの開発に成功し、その成果がNMR in Biomedicine誌に掲載された。並行して、この2年間の研究進捗を含めた超偏極13C MRI技術の総説を執筆し、Antioxidant & Redox Signaling誌に採択された。
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今後の研究の推進方策 |
常温・低磁場核偏極型の13C励起装置においては、その性能(13C偏極率)を更に向上できる開発要素が複数あり、それらの実装と性能評価を進める。特に新たな磁場勾配コイルを追加し、分極移動の最初のプロセスである非断熱的な磁場変化速度の改善による13C偏極率の改善を試みる。その一方で、現行のサードアーム法として知られる励起法とは全く異なる化学反応を用いて、より安全かつ高い13C偏極率が得られる超偏極13Cトレーサーの製造法の開発についても新たな知見が得られており、最終年度でこれらの実用性評価と知財の獲得を目指して研究を進める。 超偏極13C MRIの高速かつ高空間分解能化に繋がるDixon-IDELA型の撮像シーケンスについては、4代謝物の同時分離画像化において、半分の撮像時間で空間分解能を2倍に向上できることを数値ファントムでは確認でき、実測での検証と現行法との比較が必要になる。また、数値ファトムによるシミュレーションの中でDixon-IDEAL法は現行法よりも高い信号雑音比が必要であるかとが分かり、よりノイズの多い画像における画像再構成法の改善やノイズ除去処理の最適化も並行して進める。 実用性評価を行う疾患モデルについては、心筋梗塞モデルと非アルコール性脂肪肝炎モデルの作成と基礎的な疾患パラメータの評価までは初年度に確立している。最終年度の前半は、2年度目に完了できなかった心筋梗塞と脂肪肝炎モデルにおける、超偏極13C MRI撮像を実現し、後半は残る認知症モデルやサルコイドーシスなど加齢性疾患のMRI診断における実用性の評価を実施する。
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