研究課題
現在、遺伝子治療や癌に対するウイルス療法等が、再び大きな注目を集めている。アデノウイルス(Ad)は癌細胞だけで選択的に複製し癌細胞を死滅させる腫瘍溶解性Ad(ウイルス療法)、あるいは感染症に対するワクチンベクターとして臨床試験で広く用いられ、さらなる改良により有効性の向上が期待されている。そこで本研究では、抗ヒト5型Ad抗体による影響を受けないヒト35型Adをベースとした腫瘍溶解性ウイルスやヘキソン改変Ad(非増殖型Adベクターおよび腫瘍溶解性Ad)、さらにはゲノム編集用Adベクター系を確立し、Adを用いた遺伝子治療(ウイルス療法やワクチンを含む)や基礎研究への進展に資する基盤技術開発を行うことを目的とする。R3(2021)年度は以下の成果を得た。(1)抗ヒト5型Ad抗体の回避が可能な技術開発①ヒト35型Adを基本骨格とした腫瘍溶解性ウイルス製剤の開発:前年度にこれまで遺伝子治療やウイルス療法に広く用いられてきたAdとは異なるタイプに属するヒト35型Adを基本骨格とした新しい腫瘍溶解性ウイルスの開発に世界で初めて成功した。本年度はその抗腫瘍効果のメカニズム解析を行った。その結果、35型腫瘍溶解性Adの抗腫瘍効果にNK細胞が大きく関与していることを明らかにした。②ヘキソン改変Ad製剤の開発:抗ヒト5型Ad抗体の主なターゲットであるヘキソン超可変領域(HVR)に変異を導入したAdベクターを作製し、ウイルス増幅能、遺伝子発現能を検討し、従来のヒト5型Adベクターと同等の機能を有していることを確認した。(2)ゲノム編集用Adベクターの開発より優れたCas12a搭載Adベクターの開発を目指して、Cas12aに付与する核局在化シグナルの最適化を行い、ゲノム編集効率の向上に成功した。
2: おおむね順調に進展している
(1)抗ヒト5型Ad抗体の回避が可能な技術開発①ヒト35型Adを基本骨格とした腫瘍溶解性ウイルス製剤の開発:ヒト35型腫瘍溶解性Adの抗腫瘍効果のメカニズム解析を行った。その結果、ヒト35型腫瘍溶解性Adが従来のヒト5型腫瘍溶解性Adと比較して、腫瘍でのウイルス増殖レベルが100倍以上低いにも関わらず同等の抗腫瘍効果を示すことを見出した。そこで、ヒト35型腫瘍溶解性Adの抗腫瘍効果には抗腫瘍免疫が関与しているのではないかと考え、解析を行った。その結果、ヒト35型腫瘍溶解性Adの抗腫瘍効果にNK細胞が大きく関与していることを明らかにした。②ヘキソン改変Ad製剤の開発:当初7つのヘキソンHVR領域に変異を導入したAdベクターの作製を試みたが、HVR6に変異を導入するとウイルスが回収できない(HVR6の変異がウイルス増幅に負に働く)ことが判明した。そこで、HVR6を除く他の全てのHVRに変異を導入したAdベクターを作製した。その結果、ウイルス増幅への影響はなく、遺伝子発現能も従来のAdベクターと同等であることを確認した。(2)ゲノム編集用Adベクターの開発Cas12aのユビキチン化に寄与するCas12a中のアミノ酸残基の同定を目指して、質量分析により解析を行ったが、ユビキチン化に寄与するCas12a中のアミノ酸残基を同定することが困難であった。一方、より優れたCas12a搭載Adベクターの開発を目指して、Cas12aに付与する核局在化シグナルの検討を行った。その結果、核局在化シグナルの追加付与で、in vivoにおけるゲノム編集完了までの時間を大幅に短縮し、効率的なゲノム編集を実現可能であることが明らかとなった。また同時に、Cas12aタンパク質の安定性も向上しており、ユビキチン化に伴うタンパク分解を回避できる可能性が示唆された。
(1)抗ヒト5型Ad抗体の回避が可能な技術開発①ヒト35型Adを基本骨格とした腫瘍溶解性ウイルス製剤の開発:ヒト35型腫瘍溶解性Adを腫瘍内投与した場合、なぜNK細胞が活性化されるのかに関するメカニズム解析を行う。具体的には、1型インターフェロンの受容体のノックアウトマウスや、TLR(Toll-like receptor)ノックアウトマウスを用いて、NK細胞活性化に関与する分子を同定し、解析を行う。また、固形がんだけでなく、転移モデルでの抗腫瘍効果の評価や、ヒト35型腫瘍溶解性Adの静脈内投与による抗腫瘍効果の検討を行う。②ヘキソン改変Ad製剤の開発:HVR6を除く他の全てのHVRに変異を導入したヘキソン改変Adベクターのヒト血清存在下での遺伝子発現能を、従来のヒト5型Adベクターと比較し、ヒト血清に混在するヒト5型抗体存在下でも遺伝子導入(発現)が可能か検討する。さらに、種々の抗体価の抗ヒト5型Ad抗体を保持したマウスを作製し、同マウスにおいてもヘキソン改変Adベクターが遺伝子発現能を有するかを検討する。(2)ゲノム編集用Adベクターの開発核局在化シグナルを最適化したCas12a発現カセットを有したAdベクターを作製し、そのゲノム編集効果をin vitro、in vivoの両条件下で検討する。標的遺伝子としては、ヒト細胞を用いたin vitro 実験ではAAVS1領域、マウスin vivo 実験ではRosa26領域等を用いる。また、外来遺伝子のノックインを簡便に評価可能な細胞株を作製し、Cas12aを用いることで効率的な外来遺伝子のノックインが可能かどうかを検討する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 4件)
Drug Metab. Pharmacokinet.
巻: 42 ページ: 100432
10.1016/j.dmpk.2021.100432
Biol. Pharm. Bull.
巻: 44 ページ: 1506-1513
10.1248/bpb.b21-00394
BPB Reports
巻: 4 ページ: 17-21
10.1248/bpbreports.4.1_17
Sci. Rep.
巻: 11 ページ: 11407
10.1038/s41598-021-90928-7
J. Gen. Virol.
巻: 102 ページ: 001590
10.1099/jgv.0.001590
Mol. Ther. Oncolysis.
巻: 20 ページ: 399-409
10.1016/j.omto.2021.01.015
医学のあゆみ
巻: 279 ページ: 999-1004