研究課題/領域番号 |
20H00665
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松崎 典弥 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (00419467)
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研究分担者 |
石井 秀始 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
西原 広史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50322805)
片山 量平 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター 基礎研究部, 部長 (60435542)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん細胞 / 三次元培養 / 物理化学的因子 / 生物学的因子 / 遺伝子発現 / 組織工学 / 薬物感受性 |
研究実績の概要 |
本研究では、「臨床がんの遺伝子情報維持に必要な腫瘍環境の物理化学的要因の学術的解明」を目的として、がん周辺に存在する間質組織の細胞外マトリックスに着目し、その「硬さ」、「密度」、「組成」の3つの因子を制御したin vitro三次元培養法を構築することで、遺伝子情報の維持に必要な要因の解明に取り組んだ。 項目1:昨年度の研究成果より、大腸がん細胞の性質に足場材料の弾性率だけではなく間質コラーゲン密度も大きく影響することが明らかとなった。そこで、本年度は、コラーゲンマイクロファイバー(CMF)の量を制御することで密度の影響を評価した。CMF量の増加に従い大腸がん細胞の様々ながん幹細胞マーカーの発現が増加した。CMF密度を上げると弾性率も増加するが、大幅な増加ではないため影響は少ないと考えられる。また、CMF密度を上げると低酸素環境になることが免疫染色より確認された。以上より、コラーゲン密度ががん幹細胞性に影響することを明らかにした。 項目2:弾性率に細胞増殖因子を添加することでがん細胞の性質がより顕著に変わることが示唆された。本年度は、物理因子と生物学的因子の融合として、弾性率と血管網形成を評価した。足場材料の弾性率が増加すると血管網の密度分布が低下した。これは細胞が遊走しにくい状態にあったためと考えられる。一方、高い弾性率の方がある方向性をもって血管が形成されやすいことが分かった。これは、等方的な遊走よりも酵素による分解で一方向に異方的に遊走しやすいことを示している。以上より、弾性率が血管網形成に影響することを見出した。 項目3:ハイスループットスクリーニングを目的として96ウェル内に間質と血管網、線維芽細胞の割合を制御した大腸がんモデルパネルを作製可能であった。 以上より、当初の予想を超えた研究成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた研究項目だけでなくそれ以外の研究成果も得られた。 ①コラーゲン密度ががん幹細胞性に影響することを明らかにした。 ②予定外の成果:物理因子と生物因子を融合することで、足場材料の弾性率が血管網の密度に影響するだけでなく、血管の方向性に影響することを見出した。 ③ハイスループットスクリーニングを目的として96ウェル内に間質と血管網、線維芽細胞の割合を制御した大腸がんモデルパネルを作製可能であった。 以上より、当初の予定以外の研究成果も得られており、順調に研究を進展可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
項目3:項目②で最適化した物理化学的・生物学的因子を96ウェルで再現できるか検討する。項目②までは、主に24ウェルか48ウェルを用いた検討になるため、体積減少分だけ細胞数やCMF量を減少して96ウェルに対応する。96ウェルで遺伝子情報の維持が困難な場合、培地量が最大300μlと少ないことが原因として考えられるため、培地交換回数を増やすことで対応できると思われる。作製した96ウェルがん間質組織の弾性率、ECM量、密度計算、マーカータンパク質の発現、ゲノム解析結果を①のPDXマウスの結果と比較し、最適化を図る。また、作製したハイスループット三次元培養を用いて、抗がん剤や分子標的薬の薬効試験を行う。患者が受けた抗がん剤を添加してIC50値を算出する。患者の治療成績と IC50値の強弱により抗がん剤の奏効性を判断することで、患者の抗がん剤応答性の再現が期待される。本ハイスループット薬効試験が有用であれば、がん個別化治療の実現に大きく貢献できる。さらに、得られた知見を基に他の初代細胞の培養に展開する。各初代細胞に最適な弾性率や密度、化学組成を見出すことで、脱分化しやすい初代平滑筋細胞や初代表皮細胞、初代肝細胞などの安定かつハイスループットな新規培養方法になると期待される。
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