自律神経系は、健康時には、生体情報の変化に応じて全身の臓器を個別に調節する役割を担い、生体恒常性や生命の維持機構の要のひとつである。体内の各種生体情報を各臓器に配置された生体センサーで感知し、生体情報を中枢に送り情報処理の後、各臓器の機能を調節する命令信号を自律神経活動(交感神経活動や副交感神経活動)として臓器別に送り、臓器機能を調節する。その結果、生体情報が変化するので、その生体情報を再度感知して、自律神経活動を更新するような、フィードバック機構として動作する。ところが、この自律神経系は、病態ではむしろ不合理に働き、病勢を加速するなど、難病の病態に深く関わる可能性がある。本年度は、昨年度までの研究に引き続いて、以下の研究を行った。まず、乳がん等と高血圧等を主な対象とし、神経系が疾患とどのように関わっているかを検討した。がん組織や循環器系臓器(腎臓)等に、自律神経線維が分布するかどうか、また、どのように分布するかを、遺伝学的方法や免疫染色等の方法によって、調べた。さらに、自律神経系を一細胞レベルで捉えながらそれが全身に分布する様子を鮮明にイメージングする、超自律神経イメージングを新たに開発した。その結果、曖昧に捉えられることの多い自律神経を、一細胞レベルで捉えながらそれが頸部胸部腹部の全身に分布する実際の様子をイメージングし、明瞭に観察した。また、遺伝子工学や薬剤等を使って、神経系に介入する方法や技術を検討し、神経系への介入(抑制等)を行い、神経機能を制御して疾患を治療する、システム自律神経制御医療を試作する可能性について検討した。さらに、自律神経系の神経節について、それを構成する細胞を調べたところ、従来の考えとは異なる細胞が神経節に分布していることが分かり、自律神経系の神経節は現在の理解とは異なる機能を持つ可能性が高いと考えられた。
|