研究課題/領域番号 |
20H00668
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
櫻井 和朗 北九州市立大学, 環境技術研究所, 教授 (70343431)
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研究分担者 |
和泉 弘人 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 准教授 (50289576)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多糖β1,3グルカン / Dectin-1標的 / 量子化多糖核酸複合体 / 核酸医薬 |
研究実績の概要 |
多糖β1,3グルカンSPGと核酸が複合体を形成することを我々は世界で初めて発見し、その基礎研究と核酸医薬のDDSとしての応用展開を行ってきた。本申請では、DNAを1分子のみ含む分布がない低分子に近い複合体の特性を明らかにすると同時に、その応用として、脳へのデリバリーを目指す。脳へのデリバリーに関しては当初はSPGの側鎖のグルコースが脳関門のグルコース受容体と相互作用して脳への移行ができると考えていたが、その試みは上手く行かなかった。脳へのデリバリーに関しては細胞を使った方法を検討中である。脳の代わりに、癌随伴マクロファージへ低分子複合体を送達し、そのマクロファージの極性を変換する方法が実現の可能性が高いことが分かったので現在はその方向に焦点を移した。低分子複合体の基本特性としては、放射光X線などを使った物性測定を順調に進めることができた。その成果は論文として受理された。また、多糖核酸複合体の受容体となるDectin1のバリアントの探索も並行して進めている。この中で、従来は8種類あると考えられていたバリアントが10種類あるような結果がでてきており、これが本当なら新しいバリアントが人に存在することになる。また、低分子複合体の取り込み機構を従来の高分子複合体と比較して、サイトゾルに移行しやすいことも判明した。このような分子生物学的な研究でも進展があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①標的となるDectin-1のバリアント決定:ヒトのDectin-1のバリアントは10種類あることが分かった。今年度はこれらのバリアントを、プラスミドDNAを用いてDectin-1が発現していない細胞にトランスフェクションを行い、強制的にDectin-1が発現した細胞を作った。この細胞を用いて低分子複合体の導入試験を行ったところ、バリアントの1-6で取り込みが、遺伝子の発現は1-4で起こり、1-2が最も優れていることが分かった。この結果は今年度中に論文化する予定である。
②効率的な qSDCの合成方法の探索:低分子複合体の形成メカニズムを検討したところ、DNAが鋳型となって最適なSPGの長さを選んで複合化をしていることが判明した。そこで、原料となるSPGをアルカリ処理や超音波処理、酵素処理などを用いて分子量5万以下に調整することを試みた。理由は不明だが分子量が10万以下に下げることがかなり困難であった。そこで、アルカリ処理と超音波処理、さらにろ過による大きな粒子の除去を組み合わせて、分子量5万以下に調整できることが判明した。この低分子SPGを用いるとワンポットでDNAを一分子だけ含む複合体が合成できる。
③qSDCの高い効率の原因究明:低分子複合体の細胞内動態を、高分子複合体と比較して検討した。これには、細胞質とエンドソームベシクルを分離したあとに、そこの含まれているDNAをRT-PCRで増幅してその量を定量することで行った。その結果、低分子複合体の細胞質の濃度は初期に急速にあがりその後は落ちないこと。高分子複合体では、エンドソームに滞留してなかなか細胞質に移行しないことが分かった。なぜこのような事が起きるのかは今後の課題であるが、おそらくエンドソームから細胞質へは単純な拡散で移行しており、小さい複合体の方が移行しやすいのではないかと考える。
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今後の研究の推進方策 |
①qSDCの構造解析:低分子複合体からの溶液SAXSを強力なX線源であるSPring-8を使って行う。1量体の結果はすでに、長さ20nm、断面の径1nmの剛体棒であることが判明している(Biomacromoleculesに受理済)。今後は、DNAを2分子含む複合体について、1量体の結果をもとにして検討を進める。分光学や分子量、慣性半径の測定から、棒が2本比較的自由に回転できる連結点で繋がった形態をとっていると推定している。
②標的臓器の決定:申請書では脳関門を通過して脳にデリバリーすることを提案していた。しかし、今年度の検討の結果それは極めて難しいことが分かった。SPGを用いて直接なデリバリーはかなり困難と判断し、脳へのデリバリーへは比較的脳へ移行しやすい細胞を用いて行うことを考えている。 上述の問題で、脳への送達に関しては戦略の見直しを迫られた。他の調査で、癌随伴マクロファージにはDectin-1が発現していることがわかっている。そこで、ガン周辺のマクロファージに関して、PCR, Westernblot,FACSを組み合わせて、発現しているDectin-1の種類を明らかにする。そのあと、共焦点顕微鏡を用いて複合体の取り込み挙動を明らかにすることを考えている。この目的は、複合体を用いてマクロファージへマイクロRNAを送達し、それらの癌随伴マクロファージを活性化して癌を根治する、新しい癌免疫療法を試みることである。
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