研究課題/領域番号 |
20H00669
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片岡 淳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90334507)
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研究分担者 |
加藤 弘樹 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (20448054)
上田 真史 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40381967)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドラッグデリバリー / 核医学治療 / 陽子ホウ素捕獲反応 / 多色X線CT / コンプトンカメラ |
研究実績の概要 |
本年度は (1) 新開発MPPCアレイを用いた 64ch多色X線CTシステムの構築 (2) ハイブリッドコンプトンカメラを用いた核医学治療薬の可視化 (3) ホウ素陽子捕獲反応(pBCT)の解明に向けた基礎測定、すべてをバランスよく実施することができた。多色X線CTシステムでは、熱伝導特性の良いセラミックMPPCアレイに様々な厚みのYGAGセラミックシンチレータを接合し、従来 CTの 1/100の線量で低濃度抗がん剤 (シスプラチン、AuNP)、造影剤の同時イメージングに成功した。さらに、機械学習を用いた画像の鮮鋭化にも挑戦し、大幅な画像の改善に成功した。核医学イメージングにおいては、20keV-1000keVのワイドバンドX線・ガンマ線を同時にイメージング可能な「ハイブリッド・コンプトンカメラ」を考案し、実際に4台を 用いてAm-241(60keV), 137-Cs(662keV)の3次元イメージングが可能である事を実証した。さらにAt-211を1MBq 投与したマウスの撮影にも成功した。これらの結果はNature Sci. Rep.誌に掲載され、2020年8月にプレスリリースを行った。最後に、pBCT に関しては、まずホウ素薬剤を投与しない状態でがん細胞 (MIA PaCa-2)に陽子線照射を行い、コロニーアッセイを用いた致死率測定が可能な新たなシステムを構築した。また、アルファ線の生成量を正確に測定する新たな計測手法を確立した。2021年度はこれらのセットアップを用いたホウ素薬剤あり・なしでの細胞致死率測定、またこれまで探査されていないエネルギー帯でのアルファ線生成反応の有無を物理・生物両面から調査していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多色X線CTについては、低濃度(~mg/ml)抗がん剤、造影剤の同時撮影に成功した。さらに、機械学習を用いて画像の鮮鋭化に成功し、当初の予定を超えた大きな成果が得られた。核医学治療イメージングについても、ハイブリッドコンプトンカメラの開発に成功しただけでなく、様々なα線・β線治療薬のイメージングも実施しており、当初の予定を大幅に上回っている。しかしながら、さらなる画像の改良が可能と思われ、現在スペクトルや散乱成分を用いた新たなアプローチにも挑戦している。最後に pBCT も予定通り順調に進んでおり、とくに細胞照射実験が可能となった点は重要かつ大きな進展であり、今後の研究推進につながると期待される。一方で、アルファ線生成断面積の測定が予想以上に難しく、得られた結果も不定性が大きい。これも2021年度の実験で改良が可能である。そのため現段階では全般を通じて「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
多色CT撮影に関しては、抗がん剤を内包し造影剤で修飾した新規リポソーム薬剤の開発を行い、カプセルと薬剤の同時イメージングに挑戦する。また、生体マウスを用いたイメージング実験により、現行CTと多色CTの画像を定量的に評価する。さらに、AuNPやシスプラチンなど、比較的エネルギーの高い抗がん剤のイメージングの精度を上げるべく、照射システムの感度全体を見直していく。核医学治療イメージングに関しては、当初予定していた1光子イメージングだけでなく、広帯域を生かしたX線・ガンマ線の2光子同時イメージングや、スペクトル情報を用いてさらに S/N を上げる手法にも挑戦する。また、抗がん剤のみならず、あらゆる薬剤のイメージングを可能とする、新しい手法にも着手したい。pBCT は、その原理から生物学的(治療)効果が未解明な部分が多く、本研究で初めて、物理・生物の両面から系統的な探査を入れることを目指す。
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備考 |
(1) 2020年10月2日「X線からガンマ線まで同時に可視化」早大・阪大が共同 ― 小型のハイブリッド・コンプトンカメラ開発/科学新聞 (2) 2020年8月27日「早大と阪大、数十キロ電子ボルト~数メガ電子ボルトのX線ガンマ線を同時に可視化できるコンパクトなカメラを開発」/日経新聞・速報
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