研究課題
本年度は (1)造影剤を投与した生体マウスの多色X線CT撮影 (2) ハイブリッドコンプトンカメラを用いたマウスの3次元リアルタイム・イメージング (3) 2種類のがん細胞(DU-145/MIA PaCA-2)をもちいたホウ素陽子捕獲反応(pBCT)の生物学的効果の検証を行った。多色X線CTシステムとして、前年度に開発した64ch セラミックパッケージのMPPCおよびYGAGセラミックシンチレータを利用した。ヨード、ガドリニウム、金ナノ粒子を生体マウスに投与することで、多色X線イメージングに初めて成功した。さらに、撮影ピッチを定位相分ずらすことで解像度を最大3倍向上する「超解像度」イメージング法を実証した。核医学イメージングにおいては、前年度に開発したハイブリッド・コンプトンカメラ4台をガントリ状に構築し、回転ステージを用いたマウスのリアルタイム3D画像再構成に挑戦した。アルファ線治療薬であるAt-211 から放出される79keVのX線および570keVのガンマ線の同時撮影にも成功した。これらの結果は Nature Sci. Rep.誌をはじめとする各種論文に掲載された。最後に、pBCT に関してはヒト前立腺がん細胞株(DU-145)およびヒト膵癌細胞株(MIA PACA-2)を培養し、2種類のホウ素薬剤 BPA/BSH を様々な濃度で取り込ませることで生物学的効果を検証した。残念ながら、先行研究で報告されていた増感作用は確認できず、これは物理計測による断面積測定と矛盾しない。恐らく、先行研究がみた増感作用は、2次中性子によるホウ素中性子捕獲反応(BNCT)であると結論づけた。
2: おおむね順調に進展している
コロナの影響で、全般的に半導体センサー(MPPC)の納品が後ろ倒しに遅れたが、予定した実験自体は滞りなく行うことができた。とくに、多色X線CT撮影を用いて生体マウスのイメージングができる環境を構築できたことは、本年度の一番の成果と言える。一方で、とくに金ナノ粒子などの投与実験は1回しか行えておらず、薬剤濃度の調整を含め課題は多い。また、リポソームにシスプラチンを封入した新規DDS(ドラッグデリバリー)薬剤は試作したものの、実際CT撮影には濃度を5倍程度高める必要がある。核医学診断でも、211-At を用いたマウスの3次元リアルタイム撮影、 微弱な570keVガンマ線の撮影に成功し、臨床応用を見据えた次のステップに進むことができた。pBCTに関しては、生物学的効果が全く出ないことは想定外であり残念でもあるが、物理計測による断面積測定と矛盾ない結果であり、治療施設による照射環境の差が大きく影響することが明らかとなった。これらすべてを統合し、現段階では「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
多色X線CTでは、現在進行中のJST-ERATOプロジェクトとも協力してシステムを 64chから最大1024ch まで拡張する。また、高レート下における動作を安定させるための温度ゲイン自動コントロールシステムの導入を行い、多色CT画像の大幅な画質向上を狙う。さらに、可能であれば開発中の新規DDS薬剤をマウスに投与し、多色イメージングするなど新しい試みに挑戦したい。核医学イメージングでは、ガントリを8ユニットまで拡張し、かつマウスの体軸方向にも同時スキャン可能な新しいシステムを構築する。また、ユニット間の強度比を積極的に用いた新しい試みにより、放出箇所の特定および位置決定精度向上を狙う。陽子線治療については、ホウ素薬剤に限らず、増感作用が確認されつつも、その要因が不明な薬剤が多数ある。たとえば金ナノ粒子では、陽子線のみならずX線・ガンマ線での増感作用が多くの先行研究で確定されているが、その起源は謎である。そこで様々な造影剤による増感効果の検証および物理的背景を検証する。さらに、OMRI(Overhauser-MRI)などを用いたフリーラジカルの可視化やオージェ電子の寄与の解明にも挑戦していきたい。
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http://www.spxg-lab.phys.waseda.ac.jp/thesis.html
https://www.waseda.jp/top/news/75378