研究実績の概要 |
体内へ注入後,体温に応答してヒドロゲルを形成する温度応答型生分解性インジェクタブルポリマー(IP)の医療応用について検討した。本IPシステムは,温度上昇に伴いゲル化する際に,チオール-エン反応により共有結合架橋を形成する点に特徴がある。今年度は,このIPシステムの,(1)IP製剤最適化と組織接着性の付与,(2)IP製剤の医療応用として, a)癒着防止材, b)幹細胞療法用足場材, c)徐放型ワクチン製剤, d)麻酔薬徐放製剤,としての評価を行なった。 (1)これまでに報告した方法をスケールアップし,IP(tri-PCGおよびtri-PCG-Acryl)の大量合成を行なった。tri-PCGと末端にアクリル基を有するtri-PCG-Acrylおよび6官能チオールであるDPMPの配合比を調整し,狙った分解速度と力学的強度を有するIP製剤を調整する条件を決定した。また,血管塞栓材としての応用を意図して,このIP製剤に組織接着性を付与するため,末端をアルデヒド化したプルロニックを混合した製剤においても,ゲル化挙動に大きな変化がなく,組織接着性を発現することを確認した。 (2)a) ラット盲腸に作成した癒着モデルに対し,IPを塗布し臨床使用されているセプラフィルムと同等の良好な癒着防止効果を発現することを確認した。b) IPゲル内に保持した脂肪由来幹細胞(AdSC)が生存し,未分化状態を維持していること,および抗炎症作用のあるサイトカインを産生することなどを確認した。c) 抗原としてオボアルブミン(OVA)アジュバントとしてCpG-DNAを内包したIP製剤をマウス皮下に投与したところ,対照群と比較して,OVA特異的な血中抗体価が上昇することを確認した。d) 麻酔薬としてリドカイン,レボブピバカインを選択し,IP製剤と混合してゲル化させることで,それら薬剤の徐放が達成されることを確認した。
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