研究課題/領域番号 |
20H00670
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大矢 裕一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (10213886)
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研究分担者 |
高井 真司 大阪医科薬科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | インジェクタブルポリマー / ゾルゲル転移 / 生分解性高分子 / 癒着防止 / 再生医療 / 脂肪由来幹細胞 / ドラッグデリバリーシステム |
研究実績の概要 |
体内へ注入後,体温に応答してヒドロゲルを形成する温度応答型生分解性インジェクタブルポリマー(IP)の医療応用について検討した。本IPシステムは,温度上昇に伴いゲル化する際に,チオール-エン反応により共有結合架橋を形成する点に特徴がある。今年度は,このIPシステムの,(1)分子構造とゲル化能との関係についての体系的検討,(2)IPゲル中での脂肪由来幹細胞(AdSC)の未分化状態維持,(3)抗原とアジュバントを徐放することによるワクチンとしての免疫付与効果の増強,(4)ゲルからの麻酔薬(レボブピバカイン)徐放効果の動物実験による効果確認,について検討を行なった。 (1)従来型のABA型トリブロック共重合体(tri-PCG:ABA)に加えて,ブロック配列が逆となったBABトリブロック共重合体(BAB),4分岐型PEGを使用した分岐ブロック共重合体4-armについて,疎水性セグメント(Poly(caprolactone-co-glycolic acid)の長さやモノマー組成を体系的に変化させ,それらとゲル化温度との関係を明らかにした。 (2)マウスより単離したAdSCをIPゲル中で保持したのちに未分化マーカーの発現をRT-PCR法により定量し,未分化状態が維持されていることを確認した。 (3)抗原とアジュバント(CpG-DNA)を内包させたゲルからの徐放について検討を行なった。その結果,CpG-DNAと静電相互作用しtri-PCG-OSu末端に導入したスクシンイミドと共有結合可能なポリリシンを使用した時に顕著な徐放効果が確認された。これを担ガンマウスを使用したがん免疫療法への適応を検討した結果,腫瘍増殖抑制効果が観測された。 (4)麻酔薬としてレボブピバカインを選択し,IP製剤と混合してゲル化させて,モデルマウスに局所投与したところ,麻酔鎮痛効果の延長が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにIPの構造最適化,マウスによる癒着防止効果の確認,組織接着性の付与,幹細胞を利用した細胞療法システム,徐放型ワクチン製剤,麻酔薬徐放製剤,細胞毒性評価については,一定の効果が確認され,予定以上に順調に進んでいる。一方で,大型動物による癒着防止効果の確認および血管塞栓材としての評価はやや遅れている。これらを総合して考えると全体としてはおおむね順調に展開していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立した動物実験モデル系を使用して,引き続き徐放型ワクチン製剤による癌免疫療法効果の再現性の確認,麻酔薬徐放製剤による麻酔鎮痛効果の持続性向上の確認を行う。また,IPゲル内部でのAdSC生存期間の延長と任意の方向への分化誘導を意図した,細胞接着性の付与について検討をおこなう。また,血管塞栓に必要なゲルの力学的強度と血管壁への接着性を高める分子設計を行うとともに,狙った時間・場所においてゲルを除去できる系を作成することを目的として,光照射などによりゲルをゾルへと変換するシステムを構築する。
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