本研究では,社会への貢献が中心となる研究機関の研究成果をリスト化し,論文という形をとらずに社会に貢献する研究成果の指標を,客観的に,かつ,相互比較可能な形で提示することで,研究機関の「社会に魅せる研究力」を可視化することが目的であった。 このうち,リスト化すべき研究成果には,例えば,消滅危機言語を記録し継承するための絵本の出版,方言劇を創作し,それを地域住民と共に上演する,持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)に資するボードゲームの作成など,論文,学術書,専門書などの形をとらないだけでなく,文字情報にすることができない多種多様な研究成果もあることが明らかになった。 一方で,このような研究成果は,あまりにも多様であり,各研究成果が対象とする社会の大きさも異なることから,相互比較をおこなうことは可能であってもふさわしくないと考えられた。 そこで,機関の(論文や専門書ではない)社会に向けた研究成果のリストに含まれる研究成果の多様性を指標として提示することを試みたが,これも実際の研究者の感覚と異なる,すなわち,必ずしも研究成果の多様性が高かった研究プロジェクトの方が,それが低かったプロジェクトよりも社会的に貢献しているとは限らないと研究者が感じている結果となった。しかしながら,成果の多様性を計算するもととなる種別を工夫することによって,相互比較可能な客観的な指標の一つとしては使えると思われる。 本研究期間中は,感染症の影響もあり,十分な対面での調査と打ち合わせをおこなうことができず,「相互比較可能な形での指標の提示と可視化」には至らなかったが,今後,可視化する指標の一つとして,多様性を取り上げ,実際の研究者の感覚に合致するような計算を試行する予定である。
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