科学捜査において文書の改ざんや消された文字を検出する検査は,事件・事故の解明に重要であり,特殊な光源を使った非破壊で可視化する技術が現在使用されている.しかしながら,従来法は,すべてのサンプルに適用できるとは限らない状況である.本研究では,更なる検査の高度化を目指し,パルスレーザー励起による光音響イメージングを用いた文書の改ざん・消去文字の新規鑑定法の開発を進めた. まず,紙サンプルの光音響信号を取得するため,マイクロフォンによる光音響信号の検出装置を作製した.具体的には,紙の表側から励起パルス光を照射し,裏側に高感度のマイクロフォンを設置して光音響信号を検出するシステムを構築した. また,サンプルをラスタスキャンすることで,サンプルの各点で検出した光音響信号の強度をマッピングでき,光音響イメージが構築できる.そこで,マイクロメーターの精度で制御できる二次元の電動ステージを作製し,正確に測定点の位置を決めることに成功した.紙サンプルの各位置で得られた光音響信号から強度を算出し,電動ステージの制御とリンクさせたプログラムを構築することで,光音響イメージングを可能とした.更に,改ざんの痕跡や消された文字が見やすい光音響イメージを表示するため,グラフソフトを活用して,適切な疑似カラー表示を実現した. 改ざんされた文字や塗りつぶして読めなくなった文字の模擬サンプルを作製し,サンプルに損傷がなくかつノイズの小さい最適な励起光の強度とビーム径を考察し,光音響イメージングによる改ざん文字や消去文字の検出に成功した. これらの結果をまとめ,法科学関係の学術講演会で発表し,また光音響イメージングの研究が盛んな光医学関係の学会で招待講演を行った.
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