真核生物は多様な世代交代の様式を示す。例えば動物と違い、海藻を含む植物は1倍体 (配偶体)と2倍体 (胞子体)世代をもつ。種内多型は、形質進化の理解促進に重要な役割を持つが、世代交代の種内多型はこれまでにほとんど報告されていない。研究代表者は、異型世代交代を行うアオサ藻綱の緑色海藻エゾヒトエグサで、通常、単細胞の胞子体に発生する接合子が、配偶体に似た多細胞体に発生することを発見した。本研究では、この接合子の発生切り替え現象に着目し、この緑藻が多様化の解明に有用と期待される世代交代の種内多型を持つのかを探索した。具体的には、1) 接合子由来の多細胞体がもう一つの胞子体に相当するのか、2) 接合子由来の多細胞体から世代交代が一周するのか、を探索した。 2倍体の胞子体は、通常、雌雄両方の遺伝因子を持つ。研究代表者らは、性特異的領域を特定しそれらを対象とした性マーカーを開発した。それらを用いることで、接合子が発生を切り替えることで生じた多細胞体が、雌雄両方の特異的遺伝領域を持つもう一つの胞子体に相当することを明らかにした。培養実験により、この多細胞の胞子体が生殖可能であり、単細胞の胞子体を介して配偶体へと戻る生活環経路を持つことを明らかにした。 このように本研究では、エゾヒトエグサが接合子の発生切り替えを利用して複数の世代交代様式を行う種内多型を持っていることを明らかにした。中間的な形質としての側面を持ち、形質進化の理解を実証・理論の両面から促進してきた。本研究による新たな生活環種内多型の報告は、世代交代の進化解明に新しい切り口を提供できる。
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