膵癌は生物学的悪性度の極めて高い疾患である。近年、分子標的薬が脚光を浴び様々な癌種で有用性が認められているが、膵癌においては未だ十分な効果が得られていない。膵癌治療において、新しい治療標的の発見を視野にいれた研究は非常に重要であり、かつ切望されている。 抗体は低分子化合物と異なり、元来生体で産生されるため、副作用が少ないことなどから 医薬品開発のハードルが低く、開発成功率が高い。膵癌撲滅に向けたバイオ医薬品開発を最終目標として、前年度採択された奨励研究において、膵癌細胞株をマウスに免疫し、膵癌細胞の浸潤能を抑制する機能を指標としたスクリーニングを行い、膵癌の局所浸潤を抑制する抗体を作成した。 膵癌細胞株(MIA PaCa-2 あるいは PANC-1)を Scid マウスの膵臓に局注することにより、局所浸潤および肝転移を引き起こすマウスモデル実験系を作成した 。このマウスモデル系を用いて、樹立した抗体の機能評価を行った。膵癌の標準治療薬であるゲムシタビン存在下、あるいは非存在下で抗体の有効性を評価した。樹立したハイブリドーマから mRNA を抽出し、H 鎖お よび L 鎖の超可変領域の遺伝子をクローニングし、一本鎖抗体 (scFv) を構築後、標的分子との結合を確認することができた。そして我々が樹立した新規タグ抗体とのハイブリッドハイブリドーマを樹立し、的確に膵癌細胞表面へドラッグデリバリーできる新規抗体により、膵癌の治療戦略の基盤を確立し、その応用を目指した。
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