〇目的 耐糖能異常合併妊娠では、新生児低血糖症などの合併症予防のため厳格な血糖コントロールが求められている。現行の治療目標血糖値は、国内症例での経験的な値と英国のガイドラインを参考に作成されているが、欧米人と比較しアジア人の耐糖能は低く、妊娠時の耐糖能異常及び新生児低血糖症が生じやすいとの報告がある。そこで本研究では妊娠糖尿病合併妊娠における妊娠・分娩時の母体血糖値やインスリン使用と新生児低血糖症との関連性を検討した。 〇方法 2011年1月~2019年12月までに母体が妊娠糖尿病合併妊娠診断されインスリン治療介入後に出生した児を対象に電子カルテを用いて後方視的調査を行った。児は正期産・後期早産(36週以降に限る)かつ出生体重2000g以上の新生児とし、母体にステロイド剤もしくは分娩前24時間以内にリトドリン塩酸塩を点滴静注し出生した児は除外した。 〇成果 妊娠糖尿病合併妊婦より出生した児10/69例(14.5%)に新生児低血糖症が発現した。本研究では、新生児低血糖症の発現の有無と妊娠期のインスリン最大使用量・最終使用量、分娩時のインスリン使用歴との関連性は認められなかったが、新生児低血糖症発現群で帝王切開率が有意に高かった(P=0.002)。さらに、帝王切開症例について検討したところ、8/23例(34.8%)に新生児低血糖症を認め、分娩時の治療目標血糖値範囲内であったが、発現群で分娩前血糖値が有意に低かった(P<0.05)。本研究による新たな知見として、妊娠糖尿病合併妊娠では、分娩時の母体血糖値が治療目標血糖値の範囲内においても、帝王切開前の母体絶食等により、より低値となった場合、新生児低血糖症を引き起こす可能性が示された。出生後の定期的な新生児血糖値モニタリングにより低血糖症発現に迅速に対応できるよう対策を講じることが重要である。
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