腎移植後の拒絶反応抑制に用いられるタクロリムスは、血中濃度が低ければ拒絶反応が生じ、高ければ腎障害が惹起されるため、薬物血中濃度測定に基づく投与量調節が必要とされる。一方、タクロリムス血中濃度が目標域内で維持されているにも関わらず、腎障害や拒絶反応が発生する症例も存在する。この一因として、タクロリムスの血中濃度と移植腎組織中の薬物濃度に乖離が生じ、腎障害や拒絶反応の発生リスクが高まっている可能性が指摘されている。この点で重要と考えられるのがタクロリムスの主な薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)3A5の遺伝子多型の存在であり、遺伝子型によってタクロリムス代謝能に大きな差があるため、薬物濃度にばらつきが生じることが報告されている。そこで本研究では、腎移植患者における血中および腎組織中タクロリムス濃度の関係性、およびCYP3A5遺伝子多型がタクロリムス濃度に与える影響について検討を行った。 その結果、血中および腎組織中タクロリムス濃度間には正の相関関係が認められ、移植腎組織中濃度は血中濃度の影響を受けていることが明らかとなった。 一方で、移植腎に発現するCYP3A5遺伝子型の違いによる血中および腎組織中タクロリムス濃度への影響は認められなかった。また、移植腎に発現するCYP3A5遺伝子型の違いによる腎移植後の拒絶反応の発生率にも差は認められなかった。 本研究で得られた結果から、血中タクロリムス濃度が概ね腎組織中の薬物濃度を反映しており、腎移植患者で幅広く行われているタクロリムスの薬物血中濃度モニタリングの重要性が再確認された。また、移植腎に発現するCYP3A5遺伝子型は薬物濃度や移植後の拒絶反応の発生率に影響を与えないことが明らかとなった。これら本研究で得られた新たな知見は、今後のタクロリムス研究を進め、腎移植成績をさらに向上させる上で重要な情報になると考えられる。
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