Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology (J-SIPHE)では、レセプト請求データである入院EF統合ファイルを基に極めて少ない労力で抗菌薬使用量が自動算出される。しかしながら、入院EF統合ファイルには歯科診療、自由診療等に関するデータが含まれないため、必然的に施設内での実使用量に基づく集計との乖離が生じる。両者の差異を明らかにするため、自施設の2018年4月から2018年12月の抗菌薬使用量について実使用量に基づいた集計値とJ-SIPHEによる集計値を比較検討した。 Antimicrobial use density (AUD) では、15薬剤のうち14薬剤(93.3%)で両者の差は中央値10%以内であったが、ピペラシリンではJ-SIPHEによる集計値が中央値で30.5%高値となった。Days of therapy (DOT)では、13薬剤(86.6%)で両者の差は中央値10%以内であったが、アンピシリンではJ-SIPHEによる集計値が実使用量よりも中央値で29.0%低値となった。AUD/DOTでは12薬剤(80.0%)で乖離幅が中央値で10%以内であった。AUD/DOTで大きく乖離したのはピペラシリンで33.5%、アンピシリンで28.2%、それぞれ実使用量より高値となった。ピペラシリンは小児科での使用、アンピシリンは歯科での使用が多かったことが影響したと考えられた。 以上の結果から、多くの薬剤では両者による集計の差はわずかであり、その簡便さを考慮するとJ-SIPHEによる集計の有用性が示唆された。一方、一部に大きく乖離する薬剤もあるため、予め自施設における実使用量との差異を把握しておくことが重要と考えられた。
|