【研究の背景・目的】 抗菌薬適正使用の観点から国際的には特定抗菌薬の使用量制限を目的とした事前承認制が採用されているが、日本では事前承認制の代替手法として届出制が独自に発展してきた。届出制の目的は抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の効率的介入を促進するとともに、処方医による抗菌薬適正使用を推進する効果が期待されている。そのため適正使用の推進を図るには届出書の記載率を向上させることが必須と考えられるが、調査は行われていない。本研究は、届出書の記載の良否が感染症治療のプロセスを改善するかを評価することを目的とした。 【研究方法】 調査対象は、2018年1月1日から12月31日の1年間に抗MRSA薬、カルバペネム系抗菌薬を投与された患者とし、ASTが診断した感染源の上位7疾患を調査した。まず、抗MRSA薬あるいはカルバペネム系抗菌薬の投与開始時点における各症例の抗菌薬使用届出書において1)感染部位の推定、2)血液培養の採取状況、3)局所培養の採取状況、4)投与量設定、5)病態に応じた投与期間の設定、6)TDM実施予定日に関する記載状況を調査対象とし、これらの記載状況の結果を元に記載内容が良好である群(記載良好群)と不十分である群(記載不良群)に分類した。続いて、症例毎に上記項目が「適切に実行されたこと」を主要評価項目とし、その結果を記載良好群と記載不良群の間で比較した。 【研究成果】 記載良好群と記載不良群の間でいずれの項目も有意な差は認めなかった。感染部位については有意な差は認めなかったものの、記載良好群でASTの感染源の診断と一致する割合が多い傾向にあった。届出制は早期モニタリングのツールの一つであるが、監視対象薬剤の使用患者を即時に漏れなく確認できる施設かつ感染症内科やASTの体制が整っている施設などでは届出書の記載が感染症治療のプロセスに及ぼす影響は限定的であると考えられた。
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