研究目的:慢性骨髄性白血病(CML)治療の第1選択薬であるBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は,CML患者の予後を大きく改善した。一方で,TKI投与期間の長期化による有効性や安全性の低下が課題となっている。その一つにTKIによる心血管障害の発症が知られている。担癌患者における心血管障害は生命予後に直結する有害事象であるが,TKIは標的であるBcr-Abl以外のoff-target分子も阻害するため,心血管障害を発症するリスクが高い。TKI投与による心血管障害の発症は用量依存性と考えられているが,実臨床におけるリスク回避に対する具体的な手立てはなく,臨床症状を判断材料に画一的な投与量の減量が行われるのが現状である。本研究においては,CML患者における心血管障害の発症とTKI薬物血中濃度の関連性を評価し,薬物血中濃度モニタリング(TDM)が発症のリスク回避に有用な指標となりうるかを検討した。 研究方法:TKIが投与されたCML患者に対し,TKI-TDMを行った。各薬剤の採血ポイントはイマチニブ,ニロチニブ,ボスチニブ,ポナチニブについてはトラフ値,ダサチニブについては服薬2時間後とした。有害事象の評価にはCTCAE v5.0-JCOGを用い,観察・検査項目としては,年齢・性別などの背景因子,血漿中の各種TKI及び代謝物濃度,併用薬,血液検査値(CBC,PT,APTT,D-dimer,BNP,FDP,クレアチニン等)を用いた。 研究成果:本研究については,ダサチニブ投与中に心血管障害の副作用が発現,休薬となった患者に対し,TKI-TDMを利用し投与量調節を行い,その後,完全寛解まで到達した1症例を経験した。しかし,現在症例蓄積の段階であり,まだ明らかな成果は得られていない。今後,心血管障害の発症とTKI薬物血中濃度の関連性について解析する予定である。
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