研究実績の概要 |
研究目的:近年、抗がん剤治療中の患者は精神機能障害を生じることが問題となっている。その原因に抗がん剤の中枢神経細胞への影響が考えられ、我々は抗がん剤投与ラットの血清中脳由来神経栄養因子(BDNF)が減少するとともに不安様行動等の精神機能障害を示すことを明らかにした。一方で生薬の釣藤鈎を含む漢方薬である釣藤散および抑肝散はBDNF増加作用による神経保護作用を持つことが報告された。以上のことから本研究では、釣藤鈎含有漢方薬の抗がん剤誘発精神機能障害に対する効果を明らかにする。 研究方法:Wistar系雄性ラットを用いて、乳がんの標準治療薬であるドキソルビシン(5 mg/kg, i.p.)およびシクロホスファミド(50 mg/kg, i.p.)(以下、A C)をday1およびday8に投与した抗がん剤誘発中枢神経障害モデル動物を作成した。このモデル動物に対しACと同時に釣藤鈎 (0.1 g/kg)、抑肝散(1 g/kg)、釣藤散(1 g/kg)および比較対照として抗不安薬であるタンドスピロン(1 mg/kg)を1日1回14日間経口投与行った後、day15に行動薬理学的検討として不安行動を評価する明暗探索試験を実施した。明暗探索試験の装置は、透明なアクリル板で作成された明室と遮光のアクリル板で作成された暗室(それぞれの部屋は縦30cm×横30cm×高さ30cm)が連結した構造を持ち、明室と暗室は自由に行き来することが可能である。本装置にラットを入れ10分間の明室への進入回数および進入時間を測定した。 研究成果:抑肝散はA C投与による明室進入時間の低下を抑制した。釣藤鈎および釣藤散は A C投与による明室進入時間の低下を抑制する傾向がみられた。このことから、抑肝散はAC投与後のラットの精神機能障害を抑制し、抗がん剤による精神機能障害に対する有効な予防薬になり得ることが示唆された。
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