研究実績の概要 |
肺高血圧症治療薬であるボセンタンは約10%と高率で肝機能障害が発生し、それが高頻度で治療の妨げとなる。肺高血圧症は未治療の5年生存率34.5%と予後不良な難病疾患であるが、肺高血圧患者を対象としたSUPER2試験では12週間治療導入の遅れが生命予後を悪化させることも証明している。我々は、マイクロアレー(Affymetrix 社 DMETTM Plus)を用いて、225遺伝子1,936変異を探索し、ボセンタンによる肝機能障害関連リスク遺伝子としてCHST3およびCHST13を同定し、臨床で活用できる肝機能障害予測モデルを構築した。これらの遺伝子は、コンドロイチン硫酸の硫酸転移酵素として知られており、薬物の副作用との関連が指摘される遺伝子ではなかった。しかし、コンドロイチン硫酸などグリコサミノグリカンは、肝機能障害に伴って肝臓での発現が増加することが知られており、薬剤性肝機能障害とも機能的に関連があるのではないかと考えた。これらのことから、我々は肝機能障害時におけるCHSTの機能を解明することが、薬剤性肝機能障害を回避した創薬や治療につながると考え、臨床と基礎の両面から研究を進めてきた。 今回の研究系では、実際にボセンタンを用いて肺高血圧症治療を行ってきた患者の遺伝子を確認し、本モデルの感度・特異度の検証を行い、論文で第一報として報告している。現在、さらに追加症例を募っており、データが集積次第、続報を報告する予定である。 また動物実験系では、ボセンタンによる胆汁うっ滞を再現した胆管結紮モデルにおいて、CHST3およびCHST13の遺伝子発現およびタンパク量が変化することを確認した。本研究では、他の条件により肝機能障害を引き起こした場合の、これらの遺伝子発現およびタンパク量の変化についての検討も行った。これらのデータが集積次第、論文にて報告する予定である。
|