【研究目的】放射線治療では、治療時の患者の体動を抑制する目的で熱可塑性樹脂製の固定具を作成する。市販の樹脂の融点は60℃以上であり、高温の樹脂を顔や体に押し当てられる恐怖から、小児の場合鎮静剤の投与が必要になることがある。さらに、皮膚の表面温度が60℃に達するとやけどが生じる可能性があるため、樹脂の融点は低い方が望ましい。本研究では、放射線治療患者の負担を軽減するために低融点の熱可塑性樹脂を開発することを目的とした。 【研究方法】 ・新しい熱可塑性樹脂の開発:テトラメチレングリコールとε-カプロラクトンを開環重合させることで熱可塑性ポリマー(PCL)を作成した。分子量が50のPCLと分子量が20のPCLを作成した後、2種類のPCLをBPOとキシレンの混合溶液中で架橋させることで、新しい熱可塑性樹脂を開発した。 ・新しい熱可塑性樹脂の融点測定と性能評価:開発した樹脂の融点を測定するために、示差走査熱量測定を実施した。また、樹脂が放射線治療用固定具として応用できるか検討するために、融点以上に加温したときの引張試験(伸び性能試験)と、常温での引張試験(固定性能試験)を実施した。 【研究成果】示差走査熱量測定の結果、開発した樹脂の融点は46℃であった。伸び性能試験と固定性能試験の結果は、開発した樹脂が1.4±0.7 MPaと253.7±24.5 MPa、従来の樹脂が1.4±0.8 MPaと282.0±44.3 MPaであり同等であることが確認できた。本研究で開発された融点46℃の樹脂は、伸び性能試験と固定性能試験の両者において従来の樹脂と同等であり、熱による患者の負担を軽減した放射線治療用固定具として有用であることが確認された。なお、本研究の要旨はMedical Physics誌で発表した。また、本研究で開発した低融点樹脂の開発は産業財産権の出願を行っている(特願2019-142980)。
|