[背景と目的]家族性高コレステロール血症(FH)の多くはLDL受容体遺伝子(LDLR)やProprotein convertase subtilisin / kexin type 9遺伝子(PCSK9)の変異により発症する。アキレス腱厚(ATT)はFHの診断基準の1つであり、アキレス腱の軟度は心血管疾患(CVD)の予測因子でもある。遺伝子変異とアキレス腱との関連性を明らかにすることにより、アキレス腱の状態により遺伝子検査を優先的に実施すべき集団を選別できる可能性がある。[方法]国立循環器病研究センター病院を受診した30歳以上の外来患者319名を対象とした。FHをLDLR変異群(LDLR群)、PCSK9変異群(PCSK9群)、LDLRとPCSK9の変異群(Doublehetero群)、非検出群(Negative群)に分類し、超音波法でATTと軟度(EI)を測定し比較解析した。[結果] LDLR群とDoublehetero群は他群と比較しアキレス腱は肥厚し軟化していた。FHにおけるアキレス腱肥厚への影響度は、LDLR変異でオッズ比15.23と有意にアキレス腱を肥厚させるが、PCSK9変異は影響しなかった。心血管疾患への影響度ではLDLR変異は変異を認めないFHより2.41倍高値を示した。[考察] LDLR変異はアキレス腱への脂質沈着を亢進させるが、PCSK9変異は影響を与えないことが判明した。PCSK9変異ではATTの肥厚割合が低くFHと診断されにくいが、CVD率は非FHより高く厳重な管理が必要である。ATT肥厚を有するFH症例の診断は容易でありCVDの高リスク群として管理できる。従って、ATTは肥厚していないがFHを強く疑われる症例から優先的に遺伝子検査を実施しFHの診断を下すことにより、CVD発症リスクを軽減でき、患者の肉体的および金銭的負担の軽減に寄与できる可能性がある。
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