現在、脳梗塞の治療は血流再開を標的としているが、治療は発症後数時間以内の急性期に限られ、適用となる患者はごく一部である。脳梗塞後の亜急性期以降を標的とした、機能回復に関わる分子機序を明らかにすることは脳梗塞後の機能障害の克服に極めて重要と考えられる。長期的におこる機能回復のメカニズムには血管新生や神経新生の関与が示唆されているが、その分子機序は十分に明らかになっていない。本研究では、マウス脳梗塞モデルを用いて、脳虚血後の血管新生の制御機構を明らかにすることを目的とした。脳梗塞のモデルとして中大脳動脈閉塞モデルを使用し、機能回復期における血管新生シグナル分子の時空間パターンの可視化、それに伴う細胞挙動を組織学的・分子生物学的に解析した。その結果、血管新生に重要なシグナルとして知られるVEGFの受容体の発現が、虚血側大脳皮質において上昇することが明らかとなった。マウス脳梗塞モデルでは経時的に運動機能障害の回復が認められ、VEGF受容体の発現上昇は機能回復に伴って認められた。同時に、血管の密度変化および基底膜構造の変化が観察された。また、血管の変化や運動機能回復と並行してグリア細胞の活性化や免疫細胞の集積が観察された。脳虚血後の血管機能変化にはVEGF受容体が関与しており、グリア細胞や免疫細胞と協調して脳梗塞後の機能回復に寄与する可能性が示唆された。これらの成果は、新規治療法の開発の上で必要となる脳梗塞の病態基盤の理解に貢献すると考えられる。
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