研究実績の概要 |
危険ドラッグの一種であるカチノン類は、その代謝物も含め光学活性を有しており、各エナンチオマーの代謝変化量や生成量を個別に評価することで、より詳細な代謝機構を明らかにすることができる。本研究では、α-ピロリジノアルキルフェノン系カチノン類の基本構造を有するα-pyrrolidinopropiophenone(α-PPP)をヒト肝ミクロソーム(HLM)やヒト肝サイトゾル(HLC)によりin vitro代謝処理し、カルボニル還元代謝物(OH-α-PPP)およびオキソ化代謝物(2"-oxo-α-PPP)の生成量を評価・比較した。 分析法の検討として、液体クロマトグラフィー(LC)法によりキラルカラム12種から光学分離に最適な1本を選定し、LC法およびLC-質量分析(MS)法の一斉分析条件の最適化を行った。しかしながら、検出感度不足や夾雑物の共溶出などの影響でいずれの方法も本研究の代謝試料には適さなかった。そこで、アニオン性シクロデキストリンを泳動液に添加したキャピラリー電気泳動(CE)-MS法を用いて定量分析を行った。α-PPP(ラセミ体)のHLM代謝では、OH-α-PPPの各エナンチオマーの生成量は(S,R)<(R,S)<(R,R)<(S,S)と立体選択的な差異が認められ、特に(S,S)体の生成が顕著であった。2"-oxo-α-PPPの総生成量はOH-α-PPPの総生成量に比べて小さかった。一方、HLC代謝では、いずれの代謝物の生成量もHLM代謝に比べて小さく、カルボニル還元およびオキソ化の代謝反応はHLMによる寄与が支配的であることがわかった。今後は、立体選択的カルボニル還元反応によって生起したOH-α-PPPの各エナンチオマーの生成量や変化量の差あるいはそれらの量比から薬物の摂取時期推定など法科学的応用に資する指標を探索し、実際のヒト試料への適用を試みる。
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