研究課題/領域番号 |
20H01197
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
鷲巣 力 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 教授 (30712210)
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研究分担者 |
加國 尚志 立命館大学, 文学部, 教授 (90351311)
小関 素明 立命館大学, 文学部, 教授 (40211825)
福間 良明 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70380144)
富永 京子 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (70750008)
猪原 透 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (70795963)
樋口 陽一 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 名誉教授 (60004149)
三浦 信孝 中央大学, その他部局等, 客員研究員 (10135238)
李 成市 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30242374)
金子 元 秀明大学, 学校教師学部, 非常勤講師 (20869292)
中尾 麻伊香 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (10749724)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦後日本思想 / 東アジア / 加藤周一 / 丸山眞男 / 雑種文化論 / 『日本文学史序説』 / 映画 / 『羊の歌』 |
研究実績の概要 |
20年度の研究実績は、次項で述べる理由により計画は必ずしも思うように進まなかった。そういう中で進めた研究実績は以下の通りである。まず、2019年度に東京・日仏会館と立命館大学加藤周一研究センター(センター長は本研究の研究代表者の鷲巣)は、加藤周一生誕百年記念国際シンポジウム「加藤周一を21世紀に引き継ぐために」を共催したが、その講演録を20年9月に水声社から刊行した(総頁464頁)。本書には本研究メンバーの樋口陽一、鷲巣力、三浦信孝、小関素明、李成市が寄稿した。 同じく9月には日仏会館主催の「加藤周一記念講演会」で研究者代表の鷲巣力が「なぜ『日本文学史序説』は書かれたのか」と題するオンライン講演を行った。 また東京女子大学丸山眞男記念比較思想研究センター主催のオンラインによる公開研究会「松本礼二著『20世紀比較思想史と丸山眞男』を読む」に、鷲巣が報告者として参加した。なお同研究会の記録は丸山眞男記念比較思想研究センター編の『丸山眞男記念比較思想研究センター報告』第16号に掲載された。丸山眞男研究センターとの研究提携は3年目を迎え、今年は加藤研究チームが企画した「加藤も丸山も映画大好き! 我を人と成せし者は映画」という共同展示を行なった。これは双方の学内での展示と同時に、オンラインで広く公開した。また、コロナによって中断していた公開講読会「『羊の歌』を精読する」を12月に再開し、以降3月まで、毎月1回ずつ行なった。この講読会は回を追うごとに参加者が増えている。本研究計画の社会的発信としては一定の成果を上げていると考える。 コロナ禍と研究代表者の鷲巣の重傷事故により、共同研究会の開催がむつかしくなり、研究メンバーには次年度の活動に備えて、各自の研究を進めるように依頼した。その結果は実績報告の欄に譲るが、「東アジアにおける戦後日本思想」を理解する上での基礎的な作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究計画が遅れている理由は主としてふたつある。ひとつは、新型コロナ禍が予想外に長引いていることにより、予定のほとんどが中止に追い込まれたことによる。もうひとつは、研究代表者鷲巣力が京都駅で重傷事故を起こして2回の入院と手術を余儀なくされ、研究計画を予定通りに実行することができなかったことによる。 新型コロナが蔓延して非常事態宣言が出され、大学では入構禁止措置が取られ、共同研究会は延期せざるをえなくなった。研究チームでは、コロナの早期の収束を期待しつつ時期を待った。しかしコロナ状況は収束どころか拡大し続けて、研究方法の方向転換を図る機会を逸したことによる。本研究計画は「東アジアにおける戦後日本思想」という主題を設定しており、韓国や中国の研究者の参加を不可欠の条件と考えていた。とりわけ初回の研究会は会員が顔を合わせる必要があると判断して、そういう機会を待ったのだが、結局そういう機会は得られなかった。 これは中国でも同じ状況にあり、清華大学で行なわれる予定だった研究代表者の鷲巣による集中講義も中止に追い込まれて、この機会に同時に行なう予定だった共同研究会も実行出来なくなった。さらに韓国側に対しては、具体的に計画を提案する状況に到っていないと判断せざるをえなかった。そのために計画が遅れたことは否めない。 鷲巣の重傷事故は年度初めに起きた予期せぬ事故であり、命は取りとめたものの、手術と入院があり、その後のリハビリは長引き、研究活動は思うように進められず、計画は大幅に遅れてしまった。研究メンバーが活動できなくなった場合のフォローについては、想定しておくべきことと思うが、年度初めに起きた事故だったため、その善後策を講じることさえできなかったことは、大きな反省点である。 20年度後半に至り、計画を可能な限り取り戻そうと策を練ったものの、年度中に予定の計画を取り戻すことは出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はコロナ状況の如何にかかわらず、計画を勧められるように運営体制を整えることである。ひとつはオンラインによる研究体制を整えることは不可欠な課題である。中国・韓国の研究者との共同研究も講演会も、本来ならば対面式で行うのが望ましい。なぜならば、相互理解は相互の人間の信頼関係に基づくからであり、相互の人間の面識があることが重要だからである。しかし、目下のコロナ状況は短期間における好転は望めないだろう。さすればオンラインを使った共同研究会や講演会も準備をしておかなければならない。 本研究計画は二年目に入る次年度には、戦後の日本思想が中国・韓国で、どのように理解されているかを主たる研究課題として進めたい。とりわけ、戦後日本思想を代表する加藤周一、丸山眞男、竹内好、そして鶴見俊輔を軸にすることは当初の予定通りである。そのことが明らかにされることによって、われわれが持つ戦後日本思想のセルフイメージが相対化されるに違いない。さらに、中国における受け取りかたと韓国における受け取りかたの異同を検証することによって、中国の思想状況、韓国の思想状況があぶり出されるに違いないからである。そして、日中韓のあいだにある軋轢の原因の一端が明らかにされ、日中韓の相互理解に寄与することを強く願っている。 もうひとつは研究会や講演会を催しても、その成果は研究者の範囲に留めてしまうのでは、研究の公共性に欠けることになる。そこで研究会や講演会の記録を広く社会的に発信する必要を感じる。その方法のひとつがオンラインを使った講演会や講読会である。しかし、オンラインに馴染まない市民も少なからずいること、さらに記録性や保存性を考えると印刷媒体での記録として留めることの必要性を痛感する。問題はそのための人材と資金の確保である。これを解決することは至難であるが、地道な後進の育成と寄付金などの制度構築を考えていきたい。
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