研究課題/領域番号 |
20H01302
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
榎本 泰子 中央大学, 文学部, 教授 (00282509)
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研究分担者 |
趙 怡 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10746481)
井口 淳子 大阪音楽大学, 音楽学部, 教授 (50298783)
野澤 丈二 帝京大学, 経済学部, 准教授 (90742966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 上海 / フランス租界 / 日仏関係 / 比較文化 / 西洋音楽史 / 東アジア近代史 / ポストコロニアル研究 / グローバル文化史 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウイルスの世界的な拡大により海外での資料調査を実施することができなかったが、そのかわりにオンラインによる研究報告・打ち合わせを精力的に進め、合計7回の研究会を開催した。その内容と成果は3つに大別される。 (1)上海フランス租界で刊行された日刊紙『ル・ジュルナル・ド・シャンハイ』の分析(主としてラジオ放送欄と音楽評論欄から当地の音楽活動の実態を明らかにすること)。(2)前年に実施したフランス外交史料館における準備調査で収集した資料を整理・分類して共有すること(特に上海フランス租界公董局の教育総監であり音楽評論家だったシャルル・グロボワの経歴と実績に関わる資料や、戦後彼が館長を務めた京都・関西日仏学館の運営に関わる資料など)。(3)東京・日仏会館とアンスティチュ・フランセ東京にそれぞれ所蔵されている上海由来の図書の調査と目録化(特に分量の多い前者については会館側と協力してデータベース化に着手)。 このほか、関西日仏学館の歴史に関わる「京都における日欧交流史」研究班(京都大学人文科学研究所およびアンスティチュ・フランセ関西)の代表とのオンライン交流会を1回実施し、互いの研究成果について意見交換を行い、所蔵資料の共有や今後の連携などについて確認した。 以上のように本年度は海外渡航や国内での長距離移動がかなわない中、メンバーが各自で行える調査研究に努め、その成果はメールやオンライン研究会で随時共有した。本研究の計画に含まれている、フランス・中国・日本での関連資料の調査・収集のうち、日本については順調に着手し、フランスについてはすでに収集した資料の精査を開始したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、従来ほとんど研究がなされていなかった上海フランス租界に着目し、それがフランス・中国・日本の三か国間の文化交流に果たした役割を明らかにすることである。フランス租界の実態を解明するためには、これまで存在が知られていなかった、または利用されていなかったフランス語資料を発掘し効果的に用いることが最も重要であり、本研究ではフランス外交史料館(パリ・ナント)および中国国内の档案館(上海・北京・南京)における資料調査を最優先に位置づけていた。しかし、2020年度は新型コロナウイルスの世界的拡大によって日本から渡航することができなくなり、フランス在住または中国在住の研究協力者に調査活動を依頼することも困難だった。 当初計画では、第1年次(2020年度)にできればメンバー全員がフランスと中国での調査を行い、それぞれの専門分野や役割分担に応じて資料の所在を確認し、今後の研究の目途を立てることを想定していたが、実現できなかった。結果として、手持ちの資料(『ル・ジュルナル・ド・シャンハイ』のデジタルデータやすでに入手していたフランス外交史料館所蔵資料など)の分析を行い、日仏会館などの国内関連機関における調査を進めるのみとなった。したがって研究計画全体としてはやや遅れていると言わざるを得ない。 その反面、頻繁にオンライン研究会を繰り返したことで、メンバー間での意思疎通や問題意識の共有が容易になり、各自が発見した資料はすべて共有ドライブにアップすることで互いの作業が見えやすくなった。未曾有のパンデミックの中でも、デジタルツールを利用することで研究活動を継続することができた。
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今後の研究の推進方策 |
世界的なパンデミックがいつ収束するのか見通しがつかない中で、海外での資料調査とその活用を中心に据えた本研究は、当初の計画を見直さざるを得なくなった。第2年次(2021年度)は引き続き海外渡航がかなわないことも想定に入れて、海外での資料調査については現地協力者に依頼して代行してもらうことも検討する。例えばフランス外交史料館での準備調査の時に、ある程度所在や分類番号などを確認してあったグロボワ関連資料、フランス語ラジオ放送局関連資料などは、フランス在住の研究者に代わりに確認してもらうことも可能であろう。フランス国内の事情を鑑みつつ、協力者との連携を進めていく。 また、2020年度に資料分析を進めた結果、グロボワの経歴が徐々に明らかになり、次なる課題として家族や遺族の存在を確認することが必要になった。グロボワのように第二次世界大戦前後にフランス国外を生活拠点としていた人物は、国内ではほとんど知られていない傾向があり、グロボワも関西日仏学館での勤務を終えたあと、どのような晩年を送ったのかは不明である。遺族や関係者の存在を調べる手段については、やはりフランス在住者の意見と協力を得つつ検討していく必要がある。 パンデミック下で多くの人がデジタルツールを利用するようになったため、本研究の目指すところやこれまでの成果を随時発信することで、逆に海外から情報が寄せられることも期待できる。本研究の情報公開用にホームページを作成することは、本研究を開始した時から検討課題となっており、ある程度の成果が蓄積された段階で、実現に向けて再度方策と運営の実際について検討を開始したい。
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