研究課題/領域番号 |
20H01307
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本郷 恵子 東京大学, 史料編纂所, 教授 (00195637)
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研究分担者 |
野村 朋弘 京都芸術大学, 芸術学部, 准教授 (00568892)
長谷川 博史 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (20263642)
村井 祐樹 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (20323660)
小瀬 玄士 東京大学, 史料編纂所, 助教 (30634026)
畑山 周平 東京大学, 史料編纂所, 助教 (30710503)
木村 直樹 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (40323662)
渋谷 綾子 東京大学, 史料編纂所, 特任助教 (80593657)
西田 友広 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (90376640)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 島津家文書 / 原本史料 / 益田家文書 / 料紙研究 |
研究実績の概要 |
2020年度はコロナ感染症の拡大のため、活動が大きく制限されたが、資料館・文書館等の公的機関に対象を絞り、十分な了解を得たうえで原本史料調査を実施した。山口市歴史民俗資料館(手鑑「萬代帖」等)・山口県文書館(小早川証文・村上文書)・下関市立歴史博物館(周防国富田駅家田文書案・武久文書・天和家状・長府寺社古文書類・長府毛利家所蔵品目録・〔寄託〕総屋所蔵文書等)・愛媛県歴史文化博物館(武井文書等)・愛媛県所在寺院等文書(天徳寺文書・照源寺文書・龍澤寺文書・中川氏所蔵文書)・京都市龍安寺所蔵文書 について、調査・撮影を行った。 史料編纂所所蔵「入来院文書」(S0671.18.1)の修理を実施した。後醍醐天皇綸旨・足利直義軍勢催促状帖等、南北朝期の文書10点を簡易な帖仕立として収めているものである。各文書を貼付してある台紙じたいに経年劣化が生じているため、解装後はもとに戻さず、文書1通ごと中性紙の畳紙に収めて保管することにした。各文書については、旧裏打紙・旧補修紙を除去し、新たな補修とフラットニングを行って、できる限り発給当初の姿に近づけるような方針をとった。修理の過程では、原本史料情報についての調査・分析を実施し、紙の厚み・密度・繊維の質・簀の目・糸目等の情報を記録した。 また、史料編纂所所蔵『島津家文書』のなかの「薩藩勝景百図」(薩摩藩内の名勝・旧跡を描く5巻の絵画史料)の解説テキストである「薩藩勝景百図考」の翻刻を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍によるさまざまな制約があるなか、西日本各地での調査・撮影を実現し、多くの原本史料情報を得ている。宮崎県の都城島津邸では、都城島津家史料(「寛永軍徴」「北郷式部太輔様御文書写」「北郷一雲・讃岐守宛書状写」「久国物語」「勝目覚書」など)・菱刈文書を調査・撮影した。いずれも中世南九州の情勢復元や、史料の書写過程検討の材料として重要な意味を持つものである。これらを含む史料編纂所撮影の画像は、所蔵者である都城島津邸の許可を得て、史料編纂所のデータベースから公開される予定となっている。 また、「入来院文書」の修理は、手鑑と呼ばれる折帖仕立の史料の解装・修理の試みとして大きな意義を持つと考えている。同史料の装丁は比較的新しく、簡素なものであるため、本紙を台紙から外して保管するほうが適当と判断した。「入来院文書」は、1929 年、アメリカのイェール大学教授であった朝河貫一が『The Documents of Iriki』を刊行したことにより、日本封建制研究の根本史料として国際的に著名になった史料群である。同書は「入来院文書」を英訳しただけでなく、詳細な注釈のかたちで日欧封建制を比較した意欲的な試みとして史学史上きわめて重要な成果である。史料編纂所では、インターネットやデジタル技術の初期の段階で、同文書をデジタル撮影し、日本語・英語のテキストや注釈を付してホームページから公開した。ただし近年の技術の発展により、さまざまな点で更新が必要と思われる状態であり、本プロジェクトでの修理・調査を踏まえて、再撮影・再構築して、新しい形で公開する道筋が見えてきたといえる。 「薩藩勝景百図」についても、コロナ禍のため、鹿児島県の史料所蔵機関との交渉が進捗しないままになっていたが、2021年度以降、交渉を再開し、画像とテキストの公開につなげたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
①史料編纂所所蔵文書の修理情報研究と研究資源化:史料編纂所史料保存技術室において実施されている『島津家文書』『入来院家文書』の修理と並行して、原本史料情報の取得・分析・研究を継続する。料紙の厚み・密度・組成・加工技術、過去の装丁や修理技法、墨・朱印の性質、筆勢・筆法等の書法に関わる情報について、自然科学的手法も用いて分析し、史料一点ごと及び巻子一軸ごとの作成の経緯を検討し、史料群の伝来や管理履歴をあきらかにする。同じく史料編纂所所蔵の『益田家文書』について、現在の損傷・劣化等の状況を確認し、調査・修理の見通しを立てる。 ②他機関所蔵文書の調査:山口県文書館・鹿児島県黎明館・長崎歴史文化博物館ほか西日本の博物館等に所蔵される史料の調査・撮影を実施する。 ③「薩藩勝景百図」の研究資源化:『島津家文書』のなかの「薩藩勝景百図」(薩摩藩内の名勝・旧跡を描く5巻の絵画史料)の調査・撮影とともに、現在進めている「薩藩勝景百図考」(同図の解説テキスト)の翻刻を継続する。現在の地理情報との比較や公開等について鹿児島市の尚古集成館との連携・協力の可能性をさぐる。 ④文書復原研究:レプリカ作成に適当な史料の選定を行う。歴史上の重要性や一般市民への訴求効果、素材や様式の独自性等の条件に注目する。オリジナル文書の紙質や墨色等を精査し、素材・漉き方等を同じくした用紙を発注して、レプリカ作成を試みる。完成したレプリカは、古文書学の授業や市民講座等で活用する。 ⑤「入木道」研究:史料筆記における筆法関係史料の研究に着手する。レプリカ候補史料の選定と連携し、有職故実史料に目配りしながら進めていく。
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