研究課題/領域番号 |
20H01325
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池田 一人 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (40708202)
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研究分担者 |
黒田 景子 鹿児島大学, 総合科学域総合教育学系, 教授 (20253916)
小林 知 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (20452287)
村上 忠良 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (50334016)
王 柳蘭 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (50378824)
吉本 康子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (50535789)
山根 聡 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (80283836)
菅原 由美 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (80376821)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 東南アジア大陸部 / イスラーム / 上座部仏教 / ロヒンギャ / チャム / 雲南ムスリム / マレー・ムスリム |
研究実績の概要 |
本研究は、近世から現代までの東南アジア大陸部におけるイスラーム受容の変遷と現地社会との関係の歴史的全体像を明らかにし、その史的視野によって当地におけるイスラームの現代的位置づけを再評価することを目的とした歴史研究プロジェクトである。おもに縁辺事例(ラカイン・マレー・中国・チャム)と内陸部・移動事例を対象として、歴史学者と人類学者による合同調査の実施をとおして成果を得ることを目標としてきた。 令和3年度の最大の目標であったミャンマーへの合同調査が、コロナ禍と2021年2月のミャンマー軍事クーデターにより実施不可能となった。そこでフィールド調査に代替することはできないとしても、かわりに歴史資料の調査・研究に注力を行った。とくに現地研究協力者であるゾーリンアウン氏の協力を得て、ラカイン地方の重要な前近代史料である19世紀の王統史文書3点を入手し電子化を行うことができた。また、1974年に鹿児島大学調査団によって収集されて鹿児島大学等に保管されているビルマ前近代文書のマイクロフィルム115巻には、ラカイン前近代文書が多く含まれていることがわかっているが、これを一括して電子画像資料化することができた。 以上のミャンマー関係の歴史資料の調査・研究に加えて、3回の研究会の実施をとおして、各事例についての議論が深まった。第1回(7/31)ではカンボジアのチャム事例を研究協力者の大川玲子氏(明治学院大学)、カンボジアのムスリム事例をメンバーの小林知氏に、第2回(11/23)に、やはりカンボジアの近世クメール宮廷の事例をゲストの遠藤正之氏、ベトナム・チャムの事例を新江利彦氏に、第3回(3/23)に近世ラカインの事例を協力者のゾーリンアウン氏に報告してもらった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の通り、本科研の最大の特徴は歴史学者と人類学者による合同のフィールド調査にあるところ、2021年度は調査対象としていたミャンマーでのコロナ禍の猛威とともに、2月に発生して社会的・政治的混乱を引き起こした軍事クーデターにより、早期にフィールド調査を断念せざるを得なかった。 また、初年度にやはりコロナ禍を理由として資金繰越が認められたタイ合同調査であるが、これも実施できずに再度繰越せざるえなかった。場合によると3年目に計画していたカンボジア・ベトナムの合同調査をタイ、あるいはミャンマーと交換して実施することも考えたが、コロナ禍はここでも同様であり、この可能性も断念した。 以上の理由によって大幅に研究進展が見込めない状況に立ち至ったが、それでも各メンバーによって実施できる文献調査やインターネットを利用した現地研究者との定期的なオンライン研究会やインタビューによって、できる限りの研究進展を確保できたものと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画3年目となる2022年度は、東南アジア各国でもコロナ禍の緩和が見込まれ、9月に2年延期してきたタイ合同調査、3月に当初から3年目に計画してきたカンボジア・ベトナム合同調査を実施する予定である。 9月のタイ合同調査のための基本的な方針はすでにメンバーのあいだで合意し、タイのバンコクに多く集積する諸民族のモスクをメンバーで示しあわせて調査を行う予定である。また、タイ南部のマレー系ムスリム地域にも可能であれば合同調査を行いたいと考えている。 3月のカンボジア・ベトナム合同調査の計画は9月のタイを終えてから具体化する予定であるが、両国にまたがって分布するチャム、そして思いのほか歴史の長いマレー系のコミュニティに合同調査を行うことが有力である。 本科研最終年度末にはワーキングペーパーをまとめ、次の研究計画にステップアップする論点・枠組みを作っていきたい。そのために最終年度11月に国際シンポジウムの開催を目指す。これには当該事例に関係する海外の研究者を招く予定であり、そのための関係づくりを本年度の3回の研究会を通じて行っていく。 現在のところ、研究会を通じてとくに縁辺4事例に注力がすすんでいる。西部のベンガル・ラカイン事例の歴史的側面については十分深まっている。しかし人類学的アプローチに欠けていて、クーデターのためにこの点はしばらくは断念せざるを得ない。東部チャム系とカンボジアのムスリムに関しては歴史学者の知見と人類学者の知見がそれなりに積み重ねられ、シンポの有力なテーマを作り出せる可能性がある。南部のマレー系も同様である。北部の中国系については相対的に出遅れており、これから比較が可能になるような論点を開拓していきたい。
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