研究課題/領域番号 |
20H01334
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
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研究分担者 |
戸谷 浩 明治学院大学, 国際学部, 教授 (00255621)
吉岡 潤 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10349243)
青島 陽子 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (20451388)
西村 木綿 (西村木綿) 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 講師 (30761035)
中澤 達哉 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60350378)
米岡 大輔 中京大学, 国際学部, 准教授 (90736901)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 帝国 / ナショナリズム / ネイション / 中央ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
研究プロジェクトの2年目、2021年度も引き続きCOVID-19の影響で現地調査ができなかった。そこで、近代化する帝国を近世からの連続性のなかにどのように位置付けるか、理論的・方法論的に検討し、議論を重ねた。ロシア帝国、ハプスブルク君主国、オスマン帝国いずれの場合も、「長い19世紀」を通じて、統治機構の統一的制度化を進めている。帝国は支配領域、支配集団に応じて、その時々に地方エリートとの協力しながら統治様式を編み出したが、18世紀末から19世紀にかけて次第に統一的な統治制度を整えていった。多様な統治の伝統を継承しながら、帝国共通の帝国の法・行政制度を創造したのである。特権を有する地方エリートを超えて、より広範な人々から帝国統治への同意と参加を確保する必要が増大し、国家による統合的な経済政策も重要になった。ハプスブルク君主国の場合、貴族身分に限定されない多様な背景を持つ人々が官僚層を形成して、新たな帝国エリートが成長した。こうして1848年革命を迎えるころには、帝国市民を集合的に主権者ととらえる(皇帝・国王と権力を分有する)政治思潮も現実のものとなったのである。 19世紀後半の帝国政治において、ナショナリストは重要な政治的アクターとなるが、ナショナリストの活動は帝国の統合、一体的な制度を前提としていたことに注意を払わなければならない。帝国の「多様性」は即自的なものではなく、帝国の一体性のなかから生み出され、政治参加の圏域、行政資源の分配をめぐって相争う主体相互のなかから現れたものである。「ユダヤ・ネイション」をめぐる議論も、ユダヤ教徒共同体と君主との関係の長い歴史の連続性のなかに考えるよりは、帝国と住民をめぐる関係性の転換において考える方が適当であろう。今年度の研究で得られたこの仮説的見通しを次年度の研究で検証、発展させていくことが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の三つを研究課題として推進されてきた。1. ヨーロッパ大陸諸帝国が、近代化のエージェントとなるに従って、統治様式を変容させる実態を、その辺境/境界地域において明らかにし、さらに、辺境/境界地域での政治的・文化的経験が、帝国の中心にどのように還流し、帝国全体にどう作用したのか、明らかにする。2. 帝国と諸国民社会との関係が、政治的・文化的にいかに規定され、近代化とともに生成された「多民族的multinational」国家・社会構成に作用したのか、辺境/境界地域の経験のなかに解明する。3. 帝国の継承国家は、帝国の統治様式の変容、帝国の「国民化」を、辺境/境界地域の経験とともにどのように引き継いだのか、明らかにする。 上の「研究実績」にあげたように、今年度はこのうち1と2について近世から近代への移行期を対象に研究を進めてきた。とくに2の課題について近世の国制史研究、1848年革命期の研究で具体的な見通しを得られたことは大きな成果だといえる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は上記の1と2について19世紀後半から20世紀について集約的に研究を進めると同時に、帝国崩壊期から戦間期を対象とする3の課題について理論的・実証的検討を進める予定である。
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