研究課題/領域番号 |
20H01334
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
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研究分担者 |
戸谷 浩 明治学院大学, 国際学部, 教授 (00255621)
吉岡 潤 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10349243)
青島 陽子 北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 准教授 (20451388)
西村 木綿 (西村木綿) 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 講師 (30761035)
中澤 達哉 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (60350378)
米岡 大輔 中京大学, 国際学部, 准教授 (90736901)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 帝国 / ネイション / 中央ヨーロッパ / 境界地域 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
本年度は帝国の解体とナショナリズムとの相互関係について研究と議論を深めた。包摂的な帝国統治とネイション形成とが相互依存的な関係を検討することが本研究課題の前提であり、帝国内のナショナリストたちが帝国への参加(帝国的公共圏への参与)、帝国の行政資源の配分を争う諸相を研究活動のなかで明らかにしてきた。またネイション形成の過程については帝国期と帝国後の国民国家建設期との間に強い連続性を観察することができる。この点については、2022年12月3日に行った国際ワークショップ「境界地域におけるナショナリズム」(早稲田大学)でもエストニア、ウクライナ、モルドヴァの19・20世紀史研究の報告、および討論でも確認できた。また米岡、「バルカンにおけるイスラム受容」(研究業績参照)は近世におけるバルカンの在地社会と帝国との相互的な関係を長期にわたって概観している。 ロシアのウクライナ侵攻はその暴力性によってこれまでの帝国研究に大きな見直しを迫り、ネイションを帝国からの解放の主体と捉える古典的なナショナリズム論に力を与えることになった。ウクライナは19、20世紀を通じて諸帝国の典型的な境界地域であり、ロシア帝国論(西部諸県)、ハプスブルク帝国論(ガリツィア、ブコヴィナ)の発展を支える中核的な研究領域であったが、戦争のなかでウクライナ・ネイションの成立が語られているのである。帝国論とネイション形成論の成果の上に立ちながら、帝国解体をもう一度検討し直すことは現代的な課題となった。本研究課題の成果として試論としてそれに応えようとしたのが、篠原、「中央ヨーロッパの経験した二つの世界戦争」である。 COVID-19で延期になっていた国際文化センター(クラクフ)との共同研究「境界地域の共有遺産、ポモジェ」についてセンターと研究課題の具体化を進めたのも今年度の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19で現地の史料調査は実現できず、ウクライナ戦争は歴史認識や研究「態度」に大きな影響を与えた。連携機関である中央ヨーロッパ大学(ウィーン/ブダペシュト)、リトアニア歴史学研究所、国際文化センター(クラクフ、ポーランド)はウクライナ戦争によって研究戦略の現実的見直しを迫られた。また本プロジェクトと深い関係をもつロシア史研究者のなかにはロシアを出国して不安定な立場にある人もいる。それでも「概要」に記したように、研究分担者間の理論・方法論研究は大きく進展した。早稲田大学ナショナリズム・エスニシティ研究所が主催した研究集会「ロシア・ウクライナ戦争と歴史学」(中澤、青島、篠原が報告)は研究に大きく貢献した。また米岡、吉岡、篠原が『岩波講座 世界歴史』に寄せた論考は科研プロジェクトの成果の一端であり、これらの成果を研究分担者が共有したことで最終年度に向けて研究の課題をいっそう明確化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は初年度に計画していた「国際移動セミナー、ポモジェ/ポンメルン」を実現する見通しである。「研究実績の概要」で述べた理論的・方法論的考察を現地調査で批判的に確認することになろう。このほかにも現地での史料調査を経て、これまでの研究期間に蓄積された議論に実証研究としての具体的な形を与え、国際シンポジウムで発表することになろう。またその一端は東京外国語大学と中央ヨーロッパ大学が運営している教育プログラム「公共圏における歴史」に組み込まれるほか、マックス・ヴェーバー財団が計画している国際シンポジウムでも発表される。最終的な研究成果は2025年度の日本西洋史学会大会で発表する予定である。
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