研究課題/領域番号 |
20H01347
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
久保田 慎二 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (00609901)
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研究分担者 |
中村 慎一 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (80237403)
小林 正史 北陸学院大学, 人間総合学部(社会学科), 教授 (50225538)
宇田津 徹朗 宮崎大学, 農学部, 教授 (00253807)
大川 裕子 上智大学, 文学部, 准教授 (70609073)
宮田 佳樹 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (70413896)
板橋 悠 筑波大学, 人文社会系, 助教 (80782672)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 二里頭文化 / 初期王朝 / 夏王朝 / 食文化 / 土器使用痕 / 残存脂質分析 / 雑穀 / 学際研究 |
研究実績の概要 |
本年度は初年度ということもあり、まずは研究を進めるための基礎作業に注力した。前年度まで継続していた若手研究の成果を引き継ぎ、中国河南省の薛村・新峡遺跡で取得した土器データや民族誌情報の整理を進めた。さらに、今後の現地調査で必要となる3Dスキャナーを購入し、土器データの三次元化を進める準備を整えた。 一方、当初予定してた現地調査については、新型コロナウイルスの流行により実施することができなかった。特に前年度までは二里頭文化の主要な煮沸器である深腹罐を中心に分析を進めていたため、残りの主要器種である円腹罐、さらには鬲、ゲン、鼎などについては観察が十分できていない。これらは次年度以降に中国調査が可能となり次第、実施することとした。しかし、2021年度へと研究期間を延長したが 残念ながら渡航は叶わなかった。その他、現地調査が実現しなかったことにより、当初予定した残存脂質分析や安定同位体分析、さらには東南アジアを含めた地域における民族調査なども進めることができなかった。 しかし、前年度までに取得した深腹罐および一部の円腹罐等のデータ、残存脂質分析のためのサンプルが十分にあり、これらの分析が予想以上に進んだ。特に、土器使用痕データの整理により深腹罐が竈で蒸し調理の湯釜として使用された可能性を指摘することができた。さらに、残存脂質分析により、脂質量の少なさや植物質マーカーの検出が指摘され、使用痕分析の結果と極めて整合的な結論を得た。これらの成果は、日本中国考古学会等の学会で発表を行った。また、期間を延長した2021年度には、中国側の研究者と連絡を取りながら、これらの内容をまとめ、論文化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに述べたように、新型コロナウイルスの流行により、当初予定した現地調査が実施できていない。そのため、土器使用痕分析や民族調査、理化学分析のためのサンプリング等について、若干の遅れが出ていることは否めない。しかし、深腹罐を中心に前年度までに取得していたそれらのデータ分析を詳細に行い、当初の予想を超えて良好な分析結果を得ることができている。 また、新たに3Dスキャナーおよび3Dデータの処理ソフト等を購入したことで、学会発表および論文化の際に作成する土器使用痕図版の作成効率やクオリティが向上した。この点も、想定以上であった。 さらに、日本国内でもできる中国古典籍に残る調理や穀物に関する記載の整理も順調に進んでいる。民族誌については、特に二里頭文化の深腹罐と関連する穀物の蒸し調理を中心に収集を進めており、東南アジアや南中国に関連情報が存在することを把握している。 以上のように、現地調査の遅れが研究の進捗に影響を及ぼしてはいるが、その他の部分で十分にカバーできていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは新型コロナのまん延状況をみながら、現地調査が可能となったタイミングで円腹罐を中心とする残りの器種について土器使用痕の観察を早急に進める。また、新たに購入した3Dスキャナーを使用し、深腹罐と円腹罐を中心に三次元のデータ化を行う。これらの作業に合わせて、残存脂質分析のサンプルを使用痕分析を経た個体から採取する。また、安定同位体分析やイネに関する分析のためのサンプルは、現地カウンターパートと慎重な検討が必要であるため、事前の調整を十分に行いつつ、現地調査が実施できるタイミングを待つ。 民族調査についても同様に、中国および東南アジアに渡航できる機会をうかがいつつ、国内で民族誌の収集等を進める。また、古典籍の分析についても、これまでと同様に幅広い時期の文献を対象として調理や穀物利用に関する記載の収集に努める。 当初より、2年度目までは基礎作業を集中的に行う予定としていた。したがって、現地調査の機会をうかがいつつも、これまで取得したデータや採取したサンプルの分析を十分に行う必要がある。また、国内で継続できる民族誌や古典籍の分析も、引き続き着実に進めていく予定である。 その他、新たに中国を中心とする東アジアの食文化に関連するセミナーを立ち上げる計画を立て、延長を行った2021年度3月に第1回を開催した。「東アジアの食文化を考える」というテーマに沿って、本科研費に関わる研究者に発表を依頼し、研究交流を行うプラットフォームにしていきたいと考えている。
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