今年度は,本研究の目的を達成するために,マグネシウムの同位体測定を行った。縄文時代の遺跡の資料においてマグネシウムを抽出し,古人骨や動物骨などのマグネシウムの同位体比を測定した。陸上哺乳類よりも低く,陸上植物,海産魚類・貝類などの食物資源の同位体比と重なるように古人骨の同位体比は位置しており,それぞれの食資源を摂取した割合を反映している可能性が考えられる。しかし,食資源同士の同位体比が重なっているために,マグネシウム同位体分析を使用して古人骨の過去の食性の復元を行うことは難しい可能性が出てきた。 鉄や銅の同位体分析による性別判定に向けた前処理の検討を行った。まずは骨の標準物質のカラム分離から同位体測定までの一連の作業を確立した。銅については,標準溶液に関して,カラム分離によって単離することは可能であった。しかし,縄文人骨の歯の銅の濃度が想定よりも低く,測定に十分な銅の量を得るには,多量の資料を削らねばならず,測定が困難なことが判明した。この点について解決するには十分な試料量を用意するか,低量でも測定する手法の考案が必要である。鉄については,資料から鉄を単離して,同位体比測定を行った。その結果,男女で鉄同位体比を比較すると女性のほうが高い値を示すことが分かった。しかし値の分布は重なっており,性別判定に使用できる可能性は残しているが,判別の確度は高くないことが分かった。この課題を克服するためには,やはり銅の同位体比を測定するなどの工夫が必要であろうと考えられる。また性別による違いは見られたものの,同位体比の続成作用の影響については検討するまでに至らなかった。これは酢酸洗浄をした資料としない資料の同位体比を測定することが必要である。この点については,今後の課題としたい。
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