研究課題/領域番号 |
20H01372
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
阿部 善也 東京電機大学, 工学研究科, 助教 (90635864)
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研究分担者 |
村串 まどか 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD) (20868880)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古代ガラス / シルクロード / オンサイト分析 / 蛍光X線分析 / 起源推定 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響により,研究計画の大幅な変更を余儀なくされ,翌2021年度への繰越申請を行った。 【装置開発】本研究における中心的な研究ツールである可搬型蛍光X線分析装置(アワーズテック株式会社製100FA)について,大幅なバージョンアップを行った。グラフェン製の窓材を搭載した最新鋭のX線検出器(SDD)の導入や,水冷システムや真空システムの最適化に加えて,装置電源・コントローラ部分について修理および改良を実施した。また,FP法と呼ばれる理論計算を用いたX線スペクトルの解析ソフトウェアを導入し,実用性が大幅に向上した。 【新装置の導入】物質の光吸収・反射・蛍光のスペクトルデータを2次元画像として記録可能なハイパースペクトルカメラを新規に購入した。ガラス製品を中心とした文化財の研究における有用性を検証中である。 【オンサイト分析調査】本研究では可搬型の分析装置を文化財関連研究施設に持ち込み,古代~中世のガラス製品の非破壊かつオンサイトでの分析を実施することで,それらの起源および流通を理化学的視点から解明することを主な目的としている。2020年度は新型コロナウィルス感染拡大に伴う行動制限により,オンサイト分析調査は実施できなかった。繰越後の2021年度には京都・大徳寺,大阪府文化財調査事務所,堺市博物館,岩手県立博物館においてガラス製品の分析調査が実現した。 【研究成果の発表】2020年度に福岡・宗像大社を訪問して研究協力者と打合せを実施し,これまでの研究成果と発表の方針をまとめた。この打合せを受け,2021年度に文化財科学分野の国際誌であるJournal of Archaeological Science: Reportsに論文を投稿し,オープンアクセス論文として掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
装置の開発・改良について,新型コロナウィルス感染拡大や世界的な半導体不足の影響により開発期間が延長されたものの,計画していた可搬型蛍光X線分析装置のバージョンアップは繰越後の2021年度末までには完了した。また,新規の分析手法を研究に導入することができた。 一方,文化財のオンサイト分析調査については,新型コロナウィルス感染拡大の強い影響を受け,当初の計画から大きな変更を余儀なくされた。国内施設で計画されていた分析調査について,2020年度内は全てを中止し,研究活動がラボ内に限定される形となった。ただし繰越後の2021年度には,当初の計画に含まれていなかった対象を含む複数の研究施設で古代~中世のガラス製品やその関連遺物に関する分析調査が実現した。一方,国外施設での研究については,繰越後の2021年度も海外渡航の厳しい制限下にあったため,全てを中止せざるを得なかった。国内施設での活発な研究が実現したことで一定の成果は得られているものの,国際的な研究の活動が制限された影響は大きく,進捗状況は「(3)やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
開発・改良した蛍光X線分析装置について,その安定性や性能を評価するため,ラボ内での検証実験を行う。その上で,文化財関連研究施設に持ち込んで,ガラス製品を中心とした文化財のオンサイト分析へと応用する。ただし,3年計画である本研究はあと1年間しか残っておらず,当初予定していた研究手法(蛍光X線を中心としたオンサイト分光分析)をただ行うのみでは,2年間の遅れを取り戻すことは困難である。そこで,2021年度に新たに導入したハイパースペクトルカメラを活用して,多数のガラス製品を一度に計測(撮影)し,組成タイプや着色剤の違いなどを迅速に判別する手法の開発を試みる。 新型コロナウィルス感染拡大に加え,ロシア・ウクライナなどの国際情勢が悪化していることから,国外での調査実施の可否については今後も不透明である。しかし,すでに国内外にある複数の研究機関・施設に調査の実施を打診し,実現に向けた準備を進めている。 さらに,本研究に関わる業務を専属的に行う研究員を新たに雇用し,最終的な研究の取りまとめに向けて,オンサイト分析調査を中心とした実験の実施から,得られたデータの解析,そして成果の公開(学会発表や論文投稿)まで,スピードアップを目指す。
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