本研究では,新規炭素材料「グラフェン」を利用した最新型のX線検出器を可搬型の蛍光X線分析装置に導入し,古代ガラスを中心とした文化財の非破壊オンサイト分析へと応用して,理化学的な視点からその起源や流通を解読する研究を展開した。当初は2022年度が最終年度となる予定であったが,研究期間の大部分で新型コロナウィルス感染拡大に伴う影響を受け,研究計画を全体的に後ろ倒しにすることを余儀なくされたため,2023年度まで期間を延長した。 2021年度まで本研究で研究分担者をご担当いただいた村串まどか氏(当時:筑波大学)に,2022年度には本研究に関する研究員に着任いただき,分析装置の開発および文化財応用に関わる用務を専属的にご担当いただいた。本研究に関わる文化財のオンサイト分析調査として,2022年度には石川県埋蔵文化財センター,岡山市立オリエント美術館(岡山県),筑波大学(茨城県),2023年度にはひたちなか市埋蔵文化財調査センター(茨城県)において古代~中世のガラス製品の分析調査を行った。また,2023年度には開発した装置をエジプト・北サッカラ遺跡へと持ち込み,同遺跡から出土したローマ時代を中心としたガラス製品の非破壊オンサイト分析が実現した。ガラス製品以外にも,本研究で開発した可搬型蛍光X線分析装置を国立西洋美術館(東京都)で油彩画作品,九州国立博物館(福岡県)で中国陶磁器の分析調査に応用し,材質や技法に関わる重要な成果が得られた。 開発した装置の性能およびガラス製品を中心とした文化財への応用成果について,2023年5月にポルトガル・リスボンで開催された文化財の分析技術に関する国際学会「Technart 2023」において阿部および村串氏からポスター発表を行った。また,同年10月には韓国・釜山で開催された古代ガラスに関する国際シンポジウムにおいて阿部が招待講演を行った。
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