研究課題
本研究課題の目的は、急峻な地形と複雑な島嶼で特徴づけられるフィリピン諸島の降水を高時空間解像度で解析することで、大気大循環モデルにおいて再現性が十分でない西部北太平洋モンスーンの降水特性を、日変化を含む対流スケールから季節内変動、季節変動のマルチスケールで解明することである。現地データ解析研究では、2018年夏季に他課題で実施したフィリピン北部ラワーグでの強化観測で得られた高層気象データなどを本研究課題の遂行に必要なレベルでの品質管理を行い、特に湿度データに対して補正を施し、解析に着手した。また、フィリピンにおける降水の季節変化に見られるモンスーン開始後の雨季の休止期の気候学的特性、冬の東岸の降水をもたらすシベリアからの寒気の吹き出しの過程、ルソン島における降水の日変化の地域特性、西太平洋における台風活動の長期変化を現地データおよび再解析データを用いて解明した。数値モデルを用いた研究では、SCALEを用いたフィリピン周辺域の現在気候実験を行い、再現性の評価を行うと共に、降水量のチューニングとして、積雲パラメタスキーム(KFスキーム)の降水の種類を調整するパラメータおよび対流を発生させるトリガーの種類を調整する2種類のパラメータの感度実験を行い、再現性の向上に資するパラメータを把握した。また、海大陸(インドネシア・フィリピン周辺域)における対流活動と季節内変動の関係の理解を深化するために、全球非静力学モデルNICAMを用いて、雲微物理過程の設定を変えた比較実験を行った。日周期変動による陸上の対流の活発化は、周辺海域の対流活動を抑制する傾向を伴うが、季節内振動の発生数日前には、海上でも日周期変動が強まることで、季節内振動の発達を助長し得ることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍によりフィリピン気象局やManila Observatoryを訪問しての情報交換が困難な状況であったが、研究実地計画従い、データ解析からフィリピン諸島における季節変化の気候学的特徴などを把握したほか、数値実験に向けた数値モデルの設定や感度実験解析について一定の成果が得られている。
品質管理済の高層気象データの解析をさらに進めると共に、YMC(海大陸観測年)計画のもとで収集されているPAGASAの現業観測レーダデータを入手し、ルソン島西部や沿岸海域での降水変動に焦点を当てて解析を行う。また、2018年や2020年におけるフィリピンのモンスーンの季節進行の特異性とその原因解明、極端降水や気温の長期変化等に関し、すでに実施中のフィリピンとの国際共同研究により推進する。数値シミュレーションに向けて、積雲パラメタスキームの調整を含むSCALEによるフィリピンの降水の再現性の向上を目指す。スキームの調整による結果に物理的な解釈を加え、フィリピンの降水メカニズムを考察する。また、全球非静力学モデルNICAMを用いた気候実験(HighResMIP実験、28 km/56 km格子、100年積分)データにおけるフィリピン・西太平洋域の対流活動の気候再現性を調べ、粗解像度モデルの問題点を把握する。また、NICAMにおいてフィリピンの地形に関する感度実験の予備調査を行う。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
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