研究課題/領域番号 |
20H01432
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上嶌 一高 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40184923)
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研究分担者 |
小田 直樹 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10194557)
宇藤 崇 神戸大学, 法学研究科, 教授 (30252943)
東條 明徳 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (40734744)
池田 公博 京都大学, 法学研究科, 教授 (70302643)
嶋矢 貴之 神戸大学, 法学研究科, 教授 (80359869)
南迫 葉月 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (90784108)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 特殊詐欺 / 組織犯罪 / 故意犯 / 実行の着手 / 司法取引 |
研究実績の概要 |
本研究は、特殊詐欺の特徴(例えば(a)大規模組織犯罪であること、(b)多段階を踏んで行われること)を踏まえ、①現行法下の特殊詐欺に対する刑事的介入の限界、②より実効的に特殊詐欺に刑事的介入を行うために臨まれる立法提案について分析・検討を行う。 まず、①現行法の限界に関して、(a)の実体法的観点から、嶋矢が特殊詐欺事案をモデルとして共謀の成否や共謀の射程などの共同正犯の成否について検討した。(a)の手続法的観点から、特殊詐欺の摘発に活用されうる司法取引(協議・合意)について、南迫が取引に内在する問題・危険とそれらへの対応策を分析し、適正な取引の活用方法を検討した。 (b)に関して、実体法の観点から、特殊詐欺事案における犯罪の成立時点が問題となる。そこで、代表者は、近時の下級審裁判例や、特殊詐欺のキャッシュカードすり替え型事案において窃盗罪の実行の着手があることを肯定した最高裁令和4年2月14日決定刑集76巻2号101頁を題材として、窃盗罪の実行の着手について検討を加えた。東條は、特殊詐欺に関し、その実行の着手時点が問題とされた近時の重要な最高裁判決に関する考察を行い、その解説を公表した。 次に、②立法提案に関して、小田は、特殊詐欺を従来の「奪取罪」としての詐欺罪という発想から把握しがたい面があると考え、財産取引制度の現代的な変容(プロセスの細分化を加味した解析)から議論し直すという方向性を模索した。手続法の観点からは、宇藤が、刑事実体法による規律と刑事手続が多層的に関連する論点を通じて、刑事実体法の介入を可能とするために必要な事実と証拠の量をめぐる諸問題を検討した。また、池田は、刑事司法制度の全般にわたりITの導入が検討されている状況について立法論も視野に入れて検討し、今後の特殊詐欺事案の捜査・公判のあり方を検討するための基礎的作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、①現行法下で特殊詐欺対策としてどのようなことが可能か、不十分な点はどこか、という限界を明らかにすること、②①の分析を前提に、より実効的に特殊詐欺に刑事的介入を行うために望まれる立法提案を行うこと、の2つの目的を有する。 令和4年度は、前年度までの分析・検討結果を踏まえ、①現行法下での特殊詐欺への刑事的介入の限界を明らかにするとともに、②その結果浮かび上がる現行法の不十分な点に対応する新たな刑事立法を分析・検討することができた。 具体的には、代表者において、特殊詐欺に関する判例および周辺的犯罪類型に関する判例・実務の動向を整理・分析することを通じて、実行の着手、故意・共謀の範囲、射程、承継的共同正犯等の幅広い問題について①②双方に関係する分析・検討を行った。 また、各分担者において、①に関して、判例や学説の検討を通じて、共謀の成否・射程、実行の着手、有効な捜査手段となりうる司法取引の統制方法を検討し、それぞれ公表することができた。②に関しても、特殊詐欺に係る犯罪類型そのものの捉え方、刑事実体法の介入を可能とするために必要な事実と証拠、IT化を踏まえた捜査・公判のあり方など、立法的提案を行うための礎となる研究を広く進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度までの研究成果を踏まえ、引き続き、①現行法下の特殊詐欺に対する刑事的介入の限界を明らかにし、②その結果浮かび上がる現行法の不十分な点に対応する新たな刑事立法を分析・検討する予定である。 また、令和5年度は最終年度となることから、①②に関するこれまでの研究成果を総括し、本研究を締めくくることを目標とする。 その際の具体的方針・役割分担は従前と異ならない。すなわち、本研究が対象とする問題点は実体法と手続法の双方に関わるものであることから、その解決策も両面からの検討を要する。そこで、代表者・小田・嶋矢・東條において、特殊詐欺事案に関する実体法上の問題を扱う。特殊詐欺事案の特徴を踏まえると、故意や共謀の成否、犯罪の成立時期を中心とする幅広い課題に取り組む必要がある。また、手続法の観点から、宇藤・池田・南迫が、特殊詐欺の摘発に向けた司法取引や通信傍受などの活用、さらに摘発した犯罪の処罰に向けた公判での立証の在り方などを検討する。 最終的に、それぞれの知見を持ち寄り、実体法学者と手続法学者の共働の下で最適な解決策を示すことを目標とする。
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