研究課題/領域番号 |
20H01459
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳久 恭子 立命館大学, 法学部, 教授 (60440997)
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研究分担者 |
近藤 康史 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (00323238)
佐々木 幸寿 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (20432180)
待鳥 聡史 京都大学, 公共政策連携研究部, 教授 (40283709)
砂原 庸介 神戸大学, 法学研究科, 教授 (40549680)
市川 喜崇 同志社大学, 法学部, 教授 (60250966)
川上 泰彦 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (70436450)
本多 正人 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (90282623)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リスケーリング / 分権化 / 再集権化 / 教育委員会 / 広域化 / 狭域化 / コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究は,福祉国家再編期に政府間関係や行政単位の再編,すなわち「リスケーリング」が進んだ理由を把握することを目的とする。コロナ禍以前にたてた研究計画では,日独英米の4ヵ国の教育政策の比較を通じて,リスケーリングの実態と推進要因を明らかにすることを目的とした。だが,2020年度から現在に至るまで国内外での調査は難しい状況にある。とりわけ2020年度は移動を伴う研究活動が適わず,文献研究が中心となった。 他方で,回答者側に余裕があれば,アンケート調査の実施は可能との判断から,2020年度は3つの調査を実施した。まず,都道府県教育委員会へのアンケート調査の実施と単純集計である。次に,繰越申請期間(2021年度)に市区町村教育委員会(北海道~東海地区)へのアンケート調査と単純集計を行った。最後に,上越市にお住いの方に地域自治に関するアンケート調査を行った。 教育委員会へのアンケート調査結果からは,分権化が教育格差を拡大させかねないこと,学力の標準化には中間単位が有用との予測が示され,これを本格的に検討することが2021年度以降の課題となる。 住民アンケートは当初予定になく,コロナ禍においても実施可能な研究として,新たに組み込んだものである。研究代表者は上越市への参与観察を10年以上続けてきたが,市町村合併(広域化)に伴い導入された地域自治区(狭域化)の運営がどのような効果と問題を生じさせているのか,それらはさらなる再編を呼ぶかどうかについては,十分な研究がなされていない。一方,欧米では狭域への分権化と広域への再集権化という現象が確認される。新機軸の導入により,独自の行政機関をもたない領域(=コミュニティ)と教育機関を有する教育区との比較検討の可能性も浮かび上がり,リスケーリング研究の方向性をあらためて考える契機となった。次年度以降,これらを発展させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はCOVID-19の影響が大きく,学校現場が混乱していたこともあり,教育委員会を対象とした調査が非常に困難な状況にあった。このため,2020年度はCOVID-19への対応が若干落ち着いた2020年12月から2021年1月にかけて都道府県教育委員会へのアンケート調査を実施するのが精一杯で,翌年度への繰越をせざるを得ない状況にあった。 繰越申請を行った段階では,都道府県教育委員会事務所への調査を予定したが,2021年度春に都道府県教育委員会へのアンケート調査の単純集計を検討した結果,市区町村教育委員会アンケート調査を先行させた方が有意義であると判断し,2020年度の調査として北海道,東北,関東,北信越,東海地区に属する市区町村教育委員会へのアンケート調査を実施した。アンケート調査の回収率はいずれも有効であり,興味深い結果が見えつつある。これらの点にのみ注目すれば,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」といえる。 だが,2020年度については,COVID-19の影響で当初予定していた教育委員会への聞き取り調査を実施できなかった。本研究は,質的・量的な研究を実施することを前提にしているため,現在までの進捗状況は「やや遅れている」と評価せざるを得ない。 しかしこうした困難な中でも,研究成果の発信につなげるべく,研究計画段階では直接扱わなかったコミュニティ政策を対象の一つに加えた。欧米諸国では,コミュニティを積極的に活用する「狭域化」と「分権化」を推進する一方で,経済圏については「広域化」と「再集権化」を進めており,基礎自治体の形はそのままにリスケーリングが展開される状況にあるからである。これらをもう一つの軸にすることで,コロナ禍においても有益な発信のできる研究展開をめざしたい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,市区町村教育委員会【近畿,中国,四国,九州,沖縄地区】へのアンケート調査を実施し,2020年度の調査(実施は2021年度)とあわせて集計作業を行う。その一方で,2020年度に実施した都道府県教育委員会へのアンケート調査の分析を進める。分析結果から得られた知見を用いつつ,都道府県教育委員会の教育事務所へのアンケート調査の検討を始める。 これとは別に,先送りを余儀なくされていた教育委員会への聞き取り調査およびイギリス調査を行う。国内外の移動を伴う調査の実施は,COVID-19の感染状況に左右されるため,実施は容易でないと予想される。そこで,調査実施が2022年度以降にずれ込むことも念頭に置いて進捗管理を図る。 2020年度は,対面型の研究会の実施が難しく,zoomでの研究会を複数重ねてアンケート調査を実施させた。zoomは発言が会議を主導するメンバーに限られる傾向があり,全体の意思疎通が十分に図れたとは言い難かった。そこで,次年度(2021年度)以降は可能な限り対面型の研究会をもつことで課題共有を図り,コロナ禍においても実行可能な研究体制を築き,成果発信に務めたい。 部門別では,海外事例班の困難さが際立っているが,事例を通じた比較研究という枠にとらわれず,リスケーリング問題を広く検討することで,新たな知見を得ることを期待したい。その一例に挙げられるのが,研究代表者が新たに引いた補助線「狭域化―広域化」と「分権化―再集権化」との関係で理解する試みなどである。 研究代表者は,COVID-19に起因する不測の事態等に柔軟に対応するために,分担者と恒常的に連絡をとりつつ,研究方針を共有し,実行可能な進捗管理を行うことで,研究成果の発信につなげたい。
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