研究課題/領域番号 |
20H01467
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研究機関 | 国際教養大学 |
研究代表者 |
堀井 里子 国際教養大学, 国際教養学部, 准教授 (30725859)
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研究分担者 |
上野 友也 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (10587421)
杉木 明子 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (40368478)
柄谷 利恵子 関西大学, 政策創造学部, 教授 (70325546)
大道寺 隆也 青山学院大学, 法学部, 准教授 (70804219)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 難民保護 / 国際レジーム / ガバナンス / 安全保障 / 人道主義、人道的介入 / 帰還 / 第三国定住 / 自立 |
研究実績の概要 |
2021年度は以下の活動を行った。堀井は欧州における難民の経済的包摂の現状を把握するため、EUレベルおよびEU加盟国レベルでの難民の社会統合政策について調べ明らかにした。次に難民の起業を支援するフランス、フィンランド、英国およびエジプト(登録先は英国だが活動拠点はエジプトにおき欧州でも活発に活動)に拠点を置く5つのNGOにオンラインで聞き取りを行い、各団体の具体的な活動や資金源、関係主体との関係性・ネットワークや抱えている課題について明らかにした。上野は国連安全保障理事会による難民保護が既存の国際難民保護レジームとどのような関係にあるか調査するため、国連安全保障理事会と人権保障/難民保護に関する先行研究を収集し、また年代を冷戦期、1990年代、2000年代に区分し歴史分析と事例分析を行った。杉木は、難民保護に対して国際難民レジームが機能しない状況を把握するため、国際レジームの強度を分析するための枠組みとしてレジームの「衰退」「死文化」概念を援用しながら検討した。その過程ではソマリア難民を事例に帰還をめぐる概念を整理し、またノン・ルフールマン原則が形骸化しつつある状況を世界の複数の事例から明らかにした。柄谷は、脆弱性に基づく庇護申請者の選別と保護の実態を調べた。事例として英国の庇護政策(とくに第三国定住制度)を取り上げ、その制度的展開と実態を論じた。大道寺は、EUの域外出入国政策、とくに地中海における移民・難民船の「押し返し(pushback)」をめぐる修辞と実践の変化を分析し、EU以外の国際機構の役割を再検討した。その過程では、オンラインで国際機関およびNGOの職員に聞き取り調査を実施した。 こうした一連の調査と並行して、各人とも国内外の学会で研究報告を活発に行った。さらに、学術雑誌での論文掲載や学術書(単著もしくは一章執筆)の刊行を通して成果発表に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、本研究課題に従事する研究者それぞれが文献収集・読解、(可能な限りでの)聞き取り調査および歴史分析、事例分析を行い調査を進展させることができた。また、各人とももっぱらオンラインで開催された国内外の学会や研究会で研究の進捗状況を報告をし、それぞれの分野における研究者から貴重なフィードバックを得る機会を定期的に得ることができた。これらの点では、期待通りの進展を見せた。 しかしながら、前年度と同様に新型コロナウィルス感染症の感染拡大の影響により海外出張がかなわず、また活発な意見交換やネットワーキングの機会を十分に得ることができなかった。とりわけ前者に関しては、本研究課題に従事する研究者の多くが事例とする地域・国における現地アクターや政策関係者からの聞き取りやUNHCRなど国際機関のアーカイブを訪れての資料収集を調査における不可欠なプロセスとしているため、影響が大きかった。国内移動も制限があり国内での専門家との意見交換や関係NGOなどへの訪問ができなかった。 その一方で、上述したとおり従来は想定していなかったオンラインでの聞き取りが可能な土壌ができたため、本来の海外出張であれば訪問しきれない国・地域のNGOから話を聞くことができた(たとえばそれによって、堀井は難民支援の現場において民間企業とNGOの役割が少なくとも欧州においては近年富みに伸長している実態が分かった)。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、どの程度新型コロナウィルス感染拡大による移動制限が海外出張・国内出張に影響を及ぼすか分からないものの、以下の諸点について調査を進めていく予定である。堀井は、2021年度中に行った欧州の難民起業支援NGOの聞き取り調査を基に、難民の「自立(self-reliance)」がいかに現場で実践されているか、また、そもそも難民の「自立」を進める政策言説が国際社会でどのように醸成されたのか、その歴史的な展開過程も含めて解き明かすことを目標としている。上野は、国連安全保障理事会が武力紛争における文民の保護という目標をどのように実現したのか、南スーダンにおける国連平和維持活動を事例として取り上げ、活動の限界とその背景にある大国や紛争当事者の利害なども合わせて明らかにする。大道寺は、EU出入国管理政策における人道主義の問題を引き続き検討し、並行して難民の政治哲学に関する先行研究の渉猟を開始する。杉木は、欧州諸国からアフリカ諸国への難民の非自発的帰還の実態についてアプローチしていく予定である。柄谷は、第三国定住受け入れ拡大におけるUNHCRの役割を明らかにする。その過程では、とりわけ難民保護レジームにおける負担と責任の所在について再検討する。本研究課題全体として、全体の方向性およびカギ概念である国際レジームやガバナンス、当事者性について共通理解を深めるべく研究会を開催し、議論を重ねていく予定である。
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