本年度は政策者の情報介入による経済活動への影響を分析するインターネット実験を行った。マーケットに対して適切に情報を提供することで、生産性を高めたり取引を円滑に行わせることは政策決定者の重大な責任であるが、どの様な介入を行えばその目的が達成されるのか、近年のナッジ研究の蓄積をもってしても定かではない。情報介入の帰結がいまだに不確かである理由として、情報の受け取り手の性質や、情報に対する反応様式がよくわかっていないという理由がまず考えられるので、今年度の研究ではその点に注目し、ケーススタディーとしての介入実験を行った。 取り上げたケースは、2020年に決定した新型コロナワクチンの特許の一時停止である。これは先進国へのワクチン偏在が健康権の観点から世界的に問題となったことを端緒とするが、ワクチン開発者にとっては無視できない影響が予想される。しかし、開発者の反応様式は複雑であることが予想され、行政による特許の停止という大きな介入の帰結を知っておくことは、今後の同様の事案に対して重要な処方箋を提供することが可能である。複雑であることが予想される反応として、例えば利他的な社会効用をもっている開発者であるならば自らが開発した技術が広く利用されることは、今後の研究意欲をさらに活性化するかもしれない。一方で、研究開発を利益目的で行っているのであれば、そのようなニュースは研究意欲を著しく下げるであろう。 以上の問題を検討するために、経済産業省のリストに掲載される大学発のスタートアップ企業の社長(N=652)を対象に、特許没収の可能性を伝えるランダム化情報介入実験を行った。
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