発展途上国では、経済発展を達成させるために輸出を促進する政策が実施されている。本研究の目的は、企業間ネットワークを介した波及効果を検証することで、企業が輸出を開始することの社会的便益を正確に評価し、より最適な貿易政策の立案・実施に貢献することである。この目的を達成するために、2023年2月から3月にかけて、ベトナムのハノイ周辺の複数の刺繍産業クラスターを対象に企業調査を実施した。企業調査では、企業の基本的な情報(売り上げ、従業員数、輸出活動など)や経営者の属性(年齢、性別、刺繍産業で働いている年数、刺繍の生産経験など)に加えて、刺繍の生産を委託した企業、刺繍の製品の買い手、経営者同士の親族関係、経営者同士の情報交換のつながりについて収集した。その後、企業調査では十分に理解できなかった刺繍生産の生産方法及び生産ネットワーク構造について企業調査の対象となった一部の企業に対してインタビュー調査を行った。 輸出の波及効果を検証するために、ランダムに選ばれた刺繍産業の生産性の高い企業を対象にベトナム国内や海外の輸出商社と出会うマッチングイベントを開始することで、対象となった企業の輸出を促進する介入を行う予定だったが、イベントの開催が困難となり、イベントの実施を断念した。そこで、代替案として、昨年に実施した企業調査に参加した企業を対象に追跡調査を実施した。 今後の研究の展開としては、1年間で企業の輸出行動がどのように変わったのかを調べて、さらに、輸出行動が変わった企業とつながりのある企業の企業行動がどのように変化したのかを定量的に検証する。企業間のつながりは、刺繍の生産委託企業と刺繍の買い手の生産や刺繍の販売に関連するつながりだけではなく、経営者間の親族的なつながり、経営者同士の情報交換など多角的に定義する。
|