研究課題/領域番号 |
20H01510
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 慎太郎 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (20793946)
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研究分担者 |
森 啓明 専修大学, 経済学部, 准教授 (40778247)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幼児教育 / 非認知能力 / 相対年齢効果 |
研究実績の概要 |
幼児教育効果を検証する研究においては、都道府県別パネルデータも概ね完成し、簡単な統計モデルでの結果も確認できた。早生まれについての研究でも、基本的な統計モデルの推定が完了した。以下では、後者の研究についてやや詳しく記す。
本研究では、就学期の子どもたちの生まれ月が、学力と非認知スキル、およびスキル形成に与える影響を推定した。この分析を行うにあたり、「埼玉県学力・学習状況調査」から得られた4年分のデータを分析している。埼玉県下(ただしさいたま市を除く)の約1000の公立小中学校に通う小4から中3までのすべての子どもたちが対象であり、のべ100万人超の巨大なデータセットを得ることができたため、精度の高い分析ができた。「埼玉県学力・学習状況調査」は「項目応答理論」に基づいて学力の推定を行っており、異なる学年や調査年の間でも、学力テストの結果を比較可能にしてある。まずは学力と年齢の関係について見てみよう。どの学年で見ても、年長の子どもほど成績が良い傾向が見られる。小4では最大で偏差値3.5の格差があるが、これは学年が上がるにつれて小さくなり、中3になると最大でも偏差値1.5の格差に抑えられている。
次に、われわれが検証したのは非認知スキルについての生まれ月格差だ。非認知スキルとは心理的特性の総称で、学歴や所得などと関連があるため、近年、社会科学でもその有用性が認識されるようになってきている。この調査では、統制性、自制心、自己効力感という3つの非認知スキルについて測定している。どの学年についても、相対的に年長の子ほど高い非認知能力をもっており、その差は偏差値換算で最大1程度に上る。また、学年が上がっても、非認知能力の差が縮まっていかない点も重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画通りに進んでおり、問題は無い。
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今後の研究の推進方策 |
幼児教育の効果を識別するにあたって、1964-70年に行われた幼稚園の大幅な増設を自然実験として利用する。幼稚園の増設を推進した日本政府が、幼稚園の建設費用に大きな補助金を提供したものの、教員の人件費など恒常的にかかる運営費は自治体の負担であった。運営費を賄うための財政の状態は都道府県間で異なったため、幼稚園増設の度合いも都道府県間で違いが生じた。分析ではこの違いに着目し、子供人口あたりの幼稚園定員数が特に増えた都道府県を介入群、あまり増えなかった都道府県を対照群とする。成果変数には、その都道府県における少年犯罪率、10代の妊娠率などを用いる。幼稚園の増設が大幅に進んだ介入群における少年犯罪の変化と、幼稚園が増えなかった対照群における少年 犯罪の変化を比較し、仮に介入群において少年犯罪がより減少していた場合には、幼児教育により少年犯罪が減少したと結論づけることができる。この手法は、計量経済学では差の差分析(Differncein-Differences)として知られている。データには、前年度に作成した都道府県パネルデータを用いる。
また、早生まれの影響を評価するためのデータには、埼玉県で2015年から行われている学力調査を利用する。この調査は埼玉県の公立学校に通う小学4年生から中学3年生までのすべての子供を対象としており、観測数がのべ80万件超の大規模なパネルデータを作成することができる。この調査では、学力テストを行うだけではなく、自制心、自己肯定感、やり抜く力といった心理的特性・非認知能力の測定を行っているほか、学習時間、通塾状況、教師やクラスメートとの関わり方についても多くの質問項目が含まれている。これらの情報を用いた分析を引き続き進める。
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