研究課題/領域番号 |
20H01527
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
河野 英子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40352736)
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研究分担者 |
竹内 竜介 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (30607940)
大沼 雅也 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (30609946)
福嶋 路 東北大学, 経済学研究科, 教授 (70292191)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 普及 / 医療 / 制度化 / PAD(市民による除細動) |
研究実績の概要 |
本研究は、新しい医療「市民による除細動(PAD)」の制度化と国際的普及の分析を通じて、制度化の過程を議論するものである。 本年度は、文献レビュー、PADの普及に関わる企業の取り組みに関する分析、特定地域を取り上げた分析を行った。 文献レビューにおいては、制度論、社会運動論、および救急医療分野における議論について整理を行った。さらに、日本におけるAEDの教育内容の変遷を、文部科学省検定済教科書中学校「保健体育」を対象に分析し、そこでの記載内容が、AEDという機器に関する知識を啓蒙するものから、AEDの使用(PAD)に関する知識を啓蒙するものへと変化してきたことを明らかにした。 PADの普及に関わる分析では、AEDメーカーであるフィリップスおよび警備会社であるセコムの事例分析を行った。フィリップスは、PAD市場が存在していなかった日本でAED事業を拡大するために、多国籍企業である同社の豊富な経営資源を活用することで多様な主体との関係を構築し、市場拡大を実現させていた。警備会社のセコムは、AED事業を警備事業と融合させたビジネスモデルの構築、AEDを使用する知識やメンタリティを持つ人材の確保を通じて、日本におけるPADの普及を牽引する役割を果たしたことが明らかとなった。 地域における事例分析においては、PADの普及に向けた取り組みを先進的に行ってきた横浜市、三島市、尾張旭市を対象に分析を行った。横浜市においては、他の地方自治体に先駆けてAED設置義務化の条例を制定しており、制度の制定、AEDの使用に関する啓蒙活動の推進を通じて、PADという医療行為を実現する環境を整備していた。三島市、尾張旭市の事例では、自治体間での相互学習を通じたPADに関わる仕組みの整備、コンビニエンスストアへの設置の実現、救命ボランティアの組織化などの取り組みが行われてきたことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の理由としては、第一に、予定していたPAD先進地域での現地調査は、新型コロナウィルスの影響で難しいものとなったが、オンラインを活用したインタビュー調査、文献調査を通じた調査により分析を深めることができたこと、第二に、出張が困難ななかで、予定した範囲を超えた文献レビュー、文献調査、およびアンケート調査を行うことができたことがあげられる。それらの一部は既にワーキング・ペーパーとして取りまとめたほか、今後の研究を進めるうえでの有用な土台となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらなる文献レビュー、アンケート調査の実施と分析、および特定地域を取り上げた事例分析を行う。 文献レビューでは、制度論、社会運動論、社会心理学に関わる議論についてさらなる整理を行う。 アンケート調査については、国内で2種類のアンケート調査(一般市民におけるAEDの認知・使用に関するアンケート調査、救助・救命に対する意識に関するアンケート調査)を実施しており、これらの分析を深めるとともに、分析結果を取りまとめる。 特定地域の事例分析においては、PAD先進地域と位置付けられる地域を取り上げる。既作成のアンケート調査を、当該地域で実施することにより、比較分析等を行う。併せて、文献調査、インタビュー調査を行い、PADの制度化・普及過程における障壁がどのように克服されてきたのか、どのような要因が影響しているのか、そのメカニズムについて検討を加える。
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