研究課題/領域番号 |
20H01532
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 良憲 京都大学, 経営管理研究部, 教授 (20437297)
|
研究分担者 |
HAN HyunJeong 京都大学, 経営管理研究部, 准教授 (10830234)
増田 央 京都大学, 経営管理研究部, 特定講師 (70708875)
嶋田 敏 京都大学, 経営管理研究部, 講師 (10760514)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | サービスケイパビリティ / サービスマーケティング / 資源配分モデル / サービス工学 / RBV / サービスマネジメント / サービスイノベーション / 対人サービス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、人口減少社会において、労働集約型の対人サービス産業などにおける人手不足が深刻化する現状を鑑み、限られた資源配分の効率化や自動化技術の導入などにより、サービスケイバビリティ(サービス分野において顧客情報を活用する組織能力)の向上をはかる基礎となる研究を行うことである。具体的には、サービス提供におけるIT活用などの自動化技術や関連方法論の適用により、取り扱うことができる顧客の動的データの観点から、その顧客データに活用において求められる組織能力としてのサービスケイパビリティの明示と、RBV(リソース・ベースト・ビュー)に基づく資源配分の最適化に資する意思決定のモデルの提案などに関する研究を実施する。 2021年度は、サービスケイパビリティに関する先進的事例に対する文献調査を継続すると共に、デジタル技術の活用や動的要素を含めたモデル化などに対するインタビュー調査、アンケート調査によりデータを収集し、サービスケイパビリティの概念モデルの構築を実施した。また、顧客接点のあるサービス部門でITを活用した事例の調査・分析を行うと共に、課題解決が行える人的資源の開発・活用についての基礎調査を行った。さらに、宿泊産業、特にビジネスホテルを題材に、顧客接点における技術と人の資源の活用について分析を行った。チェックインにおける利用機器と接客スタイルについて、利用機器の種類よりも接客スタイルの違いの方が顧客の印象に残る場面により影響を与えるという結果が得られ、効果的な資源活用についての考察が得られた。 このような研究成果の発信として、国際会議における招待講演も含め、サービス学会国内大会オーガナイズドセッションの企画、論文発表や、大学内ワークショップを企画・運営し、研究成果に対する活用展開にも努めた。また、サービスケイパビリティとして人的資源の効率化が行える手法についての特許出願を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サービス産業に対し、リアルとバーチャルの視点、並びに、人が対応を行うサービスと自動化サービスの視点から事例を選定し、インタビュー、アンケート調査などの手法に基づくデータ収集を引き続き実施した。具体的には、2021年度の実施計画であったデジタル技術の活用や動的要素を含めたモデル化などに関する先進的事例の文献調査、および、インタビュー調査/アンケート調査によりデータを収集し、サービスケイパビリティの概念モデルの構築を実施することができた。 また、人手不足に苦しんでいるサービス部門の生産性向上と新たな人的資源開発のため、2021年においては、シニアサービス従事者に対する基礎調査を実施した。加えて、コミュニティなどにおいて、サービス課題を解決するソリューション人材や組織能力が効率的に活用されていない現状を踏まえ、サービスの潜在的利用者とサービス提供者との効率的、効果的なマッチングを行う方法論の提案を行い、該当内容に関する特許出願を行った。 さらに、対人サービスとしての宿泊サービスにおける提供観点と利用観点それぞれでの技術資源と人的資源の位置づけの違いや相互の評価について、実験的なデータ分析、現場観察による業務理解や、管理する側へのインタビューなど、多面的な活動を実施した。このような活動に基づき、資源活用モデルの構築に向け、追加で求められる観点やデータについての整理も進み、2022年度に行う研究活動に取り組み始めることができた。 以上の研究活動から、技術資源と人的資源についての提供観点、利用観点それぞれでのデータ取得と分析について進展することができた。一方で、コロナ禍の影響により、旅行業での高度サービス、自動車関連産業での自動運転サービス、スマートシティなどのMaaS化などは、当初の想定時期や内容とは異なってきており、次年度以降の研究遂行に際して、このような環境変化を組み入れる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度に収集した定性および定量データの分析を進め、サービス提供企業において動的なデータ活用を効果的に行うためのサービスケイパビリティとして組織能力の明示化、および、そのような能力を有する企業・組織やコミュニティの市場に対する影響力や経営のパフォーマンスに与える影響の検証を行う。そして、各企業・組織ドメイン毎で求められる、顧客の動的なデータ活用やICT投資観点を踏まえた、資源配分の最適化に資する意思決定モデルのプロトタイプ提案を行う。 また、このような研究計画の一環として、コミュニティにおけるシニアサービス従事者のIT関連教育や、仕事に直接的なIT活用が職業満足度に影響するか、シニアサービス従事者の会合や職業関連以外の活動が生活の質の向上に影響するかなどについての基礎調査をもとに、2022年度はデプスインタビューなどを追加し、サービス部門の人手不足を解決するための方策について具体化する。 さらに、宿泊サービスにおける従業員間での顧客情報の共有に関し、口頭で直接行う場合と情報システムを利用する場合とで共有される情報の種類や伝達効率について比較を行う。このような調査活動を通じ、顧客情報を接客上で活用する際に求められる情報管理についての分析を深め、従業員同士での交流と情報システムによる情報共有の仕組みについてのフレームワークを明確化する。 これらの個別サービス領域での活動をふまえて、体系的な知識探索やアプローチを用いてサービスケイパビリティの統合的概念モデルの構築を目指す。関連国際学会での発表や学会誌での論文掲載を行うと共に、定期的な研究会の開催を通じて、当該領域の研究者ネットワークを広げる。加えて、世界的なサービス研究動向を把握しつつ、日本企業・組織等のサービス事例分析結果や、サービス・ホスピタリティ組織の持続的価値の創出方法論に対し、啓蒙のための書籍出版を行う。
|