研究課題/領域番号 |
20H01547
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
横田 明紀 立命館大学, 経営学部, 教授 (30442015)
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研究分担者 |
鈴木 賢一 東北大学, 経済学研究科, 教授 (30262306)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リスクマネジメント / 企業情報システム / 開発プロジェクト / リスク要因 / 潜在クラス回帰分析 |
研究実績の概要 |
研究初年度である2020(令和2)年度では、システムインテグレーション企業(SI企業)でのシステム開発プロジェクトにおいて計画工数と実績工数との差異に関わる分布状況の把握、および計画工数と実績工数に差異をもたらした潜在的なリスク要因の分析をおこなった。 本研究に取り組むにあたり国内のある大手SI企業から2006年1月以降に開始され2019年3月までに完了した711件のシステム開発プロジェクトについて、プロジェクト開始前に見積もられた計画工数および78個のリスク評価項目とその評価内容、プロジェクト完了時に実際に費やされた実績工数が記されたデータの提供を受けた。この内、計画工数と実績工数の双方に欠損値がない693プロジェクトについて計画工数と実績工数との差異の実態を示した。さらに、こうした工数の差異に対しリスク評価項目での評価内容との因果関係を把握するため、工数比(実績工数を計画工数で割った値)が0.70以上、5.00以下の範囲にある638プロジェクトを分析対象とした潜在クラス回帰分析をおこなった。この分析を通じ、リスク評価項目を18のリスク因子にまとめ、かつ、それぞれのプロジェクトで工数に差異が生じた要因を、各リスク因子の影響度の違いに基づき5つの潜在クラスに分類した。この分析での結論は以下の2点を示唆している。 (1)潜在クラスが識別されることで、各クラスの特徴を把握することができ、事前のリスク評価に基づきプロジェクトの実績がどのような状況になる可能性があるのかを推測することができる。 (2)潜在クラスごとに強く影響する可能性が高いリスク因子を把握できることで、事前にリスクに対するきめ細かい対応を検討することができる。 以上のように、これまでの研究は計画段階でのリスクの評価がプロジェクト完了時の実績に与える影響、およびシステム開発プロジェクトにおけるリスク構造の特徴を明らかにしてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は全研究期間(4ヶ年)を通じて(1)事象の把握、(2)潜在的なリスク要因の特定、(3)リスクへの反応の分析、(4)可視化の4点を、順次、実施することを計画している。このうち研究初年度となる2020(令和2)年度では(1)事象の把握を中心に研究を遂行し、年度後半では(2)潜在的なリスク要因の特定に取りかかることを計画していた。これらの計画に対しは概ね研究を遂行し、その研究成果として2020年11月8日に経営情報学会2020年全国研究発表大会で報告をおこなった。 他方、新型コロナウイルスの感染拡大により調査企業への出張調査が予定通りに実施できなかったことから、一部のデータが揃わなかったり、調査企業との十分な調整や確認作業がおこなえなかったりした。そのため、2020(令和2)年度内を想定していた研究論文の作成については現在執筆中となっており、また、国際学会などでの発表に関しても実施できていない状況にある。加えて、これまでの研究を通じ、リスク因子の特徴を把握するには至らなかったプロジェクトに関する追加的な考察や、分析モデルの更なる改良や他の分析モデルの適用、およびモデル間での分析結果の比較の必要性など、課題も生じている。これらについては2021(令和3)年度において調査企業とのオンラインなどでの打合せを継続的に実施しながら、研究スケジュールの回復を試みたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目となる2021(令和3)年度では(1)潜在的なリスク要因の特定、(2)リスクへの反応の分析に取り組む。 (1)潜在的なリスク要因の特定は、昨年度より継続して本年度も特に前半で取り組む。昨年度(令和2年度)において、ある大手SI企業からデータの提供を受け、システム開発プロジェクトの開始前に見積もられた計画工数と、プロジェクト完了時に実際に費やされた実績工数との差異の実態を示した。加えて、こうした工数の差異に対する計画段階で予見されたリスク評価との因果関係を把握するため、潜在クラス回帰分析のモデルを用い、プロジェクトを幾つかの潜在クラスに分類し、かつ、潜在クラスごとに強く影響する可能性が高いリスク因子を特定することで各潜在クラスのリスク構造の違いを考察した。しかしながら、分析対象としたシステム開発プロジェクトの約4分の1では、各潜在クラスのリスク因子の特徴を把握するには至らなかった。また、使用した潜在クラス回帰分析のモデルについても、パラメータの僅かな取り方の変化により分析結果が変わってくるといったモデル自体の不安定さも残っている。本年度ではこうした潜在クラスに属するシステム開発プロジェクトについてのリスク要因の考察とともに、更なる分析モデルの改良や他の分析モデルの適用、およびモデル間の分析結果の比較をおこなう。 さらに、本年度後半で計画している(2)リスクへの反応の分析では、これまでのリスク要因の特定を踏まえ、特徴的なプロジェクトを15件~20件程度抽出し「それぞれのプロジェクトの作業現場において顕在化したリスクに対し、どのような対応や活動(アクティビティ)が講じられたのか」を、開発プロジェクトの記録を解析するとともに、各プロジェクトのプロジェクトマネージャ等への聞き取りを通じて把握する。
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