研究課題/領域番号 |
20H01552
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤村 和宏 香川大学, 経済学部, 教授 (60229036)
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研究分担者 |
小林 哲 大阪公立大学, 大学院経営学研究科, 教授 (60225521)
高室 裕史 甲南大学, 経営学部, 教授 (30368592)
磯田 友里子 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 講師 (40822200)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 便益遅延性 / 教育サービス / 機能的便益 / 価値観的便益 / 感情的便益 / 顧客志向 / 顧客満足 / 学習行動 |
研究実績の概要 |
便益遅延性の観点から教育サービスにおける目標形成、学習行動、モチベーション、および3つの便益(機能的便益、感情的便益、価値観的便益)の享受にかかわるモデルの構築を行うとともに、その検証を医療系専門学校と料理系専門学校の学習者を対象に実施している調査結果を用いて行った。なお、医療系専門学校は3年制で、2018年度から2020年度の入学生を対象に、入学から卒業まで継続的に調査を実施し、2023年3月で調査を終了した。料理系専門学校は2年制で、2020年度からの入学生を対象に、入学から卒業まで継続的に調査を実施しており、現在も2022年度入学者を対象に調査を継続している(2023年度入学者に対しても実施)。調査では、学習行動、目標、便益享受、モチベーション、および顧客満足等の変化を把握している。 これまでの両専門学校での調査結果の分析では、機能的便益と価値観的便益の享受に対する知覚はN字型に変動する傾向があることが明らかになった。この傾向は認知バイアであるダニング=クルーガー効果によるスキル向上と自信の関係と類似しており、両専門学校ともに現場実習を課していることから、これが乗り越えるべき“カベ”となり、N字型変動が生じていると推察された。機能的便益と価値観的便益の享受に対する知覚がこのように変化することによって感情的便益と顧客満足も同様な変化を示していた。また、学習モチベーションも学習過程とともに変化する傾向が見られた。 さらに、学習者の顧客満足の形成に対しては、教育サービスの本質的な便益である機能的便益や価値観的便益よりも、感情的便益の方が重要な役割を果たしていることが明らかになった。この結果から、従来のマーケティングにおいては成果指標として顧客満足が用いられてきたが、教育サービスにおいてはこの指標は必ずしも適切ではいことから、代替的指標の考察を調査結果の分析に基づいて行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教育サービスは、「目標の有無」と「期限の有無」という2次元を用いて分類し、さらに目標を「特定的/専門的能力の向上」と「汎用的能力の向上」に分ける ことで、5つのカテゴリーに分類することができるが、本研究では、「目標なし」かつ「期限なし」のカテゴリーを除く、4つのカテゴリーに属する教育サービス を研究対象としている。具体的には、「特定的/専門的能力の向上」かつ「期限あり」に属する専門学校、「特定的/専門的能力の向上」かつ「期限なし」に属す るマネジメント・ゲーム(MG)と専門職労働の職務遂行、「汎用的能力の向上」 かつ「期限あり」に属する大学、そして「汎用的能力の向上」かつ「期限なし」に 属する祭りを研究対象としている。 専門学校については、医療系専門学校では2018年度入学生から、料理系専門学校では2021年度入学生から入学から卒業まで継続的に調査を実施できており、学習過程の進展による便益享受、目標の明確化・向上、モチベーション、顧客満足等の変化にかにかかわるデータを蓄積できている。医療系専門学校と料理系専門学校ともに、入学から卒業までの変化を分析できるデータを獲得できたことから、学習行動モデルの検証が可能になった。 MGの調査については、2つの組織の従業員にゲームに参加するごとに調査協力を依頼しており、経験による変化にかかわるデータの蓄積ができている。また、これまでの調査結果の分析に基づいてMGにおける学習行動モデルの再構築を行うとともに、調査票の改善を行い、令和5年度に再調査を行う準備が整った。 祭りについては、コロナ禍の影響で研究対象とするものが開催されたかったことから、インタビュー調査を実施できなかったが、関連資料の収集は行うことができた。 以上のようなことから、教育サービスのカテゴリーによって進捗状況は異なるが、おおむね順調に進んでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の5点を中心に研究を進めていきたいと考えている。 1)2つの専門学校の学生を対象に実施している継続的調査の結果を用いることで、学習過程の進展とともに便益享受や目標、学習行動、モチベーション、顧客満足等がどのように変化するのか、に関する詳細な分析を行う。この分析結果に基づいて、目標形成、学習行動、モチベーション、および便益享受にかかわるモデルの精緻化を行う。特に、現場実習が乗り越えるべき“カベ”となることで、学習過程の進展とともに便益享受に対する知覚がN字型に変化することが明らかになったことから、この変化の過程で目標やモチベーションにどのような変化が生じ、それは学習行動にどのような変化を及ぼすのかを明らかにし、モデルに組み込みたい。 2)医療系専門学校と料理系専門学校との間における「学習成果の評価基準の明確性(国家試験合格)」と「実習による習得能力の見える化水準」の違いによって、顧客満足に影響を及ぼす要因に違いが見られ、顧客満足をマーケティングの成果指標とすることの問題が明らかになったことから、代替的指標について検討する。さらに、顧客満足を成果指標とする前提となっている「顧客志向」概念について検討し、教育サービスにおける「顧客志向」の提案を行う。 3)MGの参加者を対象とする調査票を再構築したことから、これを用いて調査を実施することで、「特定的/専門的能力の向上」かつ「期限なし」に属する教育サービスの目標形成と学習行動、モチベーション、学習成果に関するモデルの精緻化を行う。 4)教育サービスとしての祭りの効果をモデル化するために必要な資料や情報を収集するために、祭りの担い手と観客に対してインタビュー調査と観察調査を実施する。 5)専門学校、MG、および祭りを対象とする調査の結果を参考にしながら、さらに大学での教育経験を考慮して、大学における学習モデルの構築を行う。
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